異次元バスでGO!
 なんだこれ……。佑香はごくんと唾を飲みこんだ。


 森や田園風景や都会のビル群がパッチワークみたいになった、変な景色に目眩がする。


 本当に、これは不思議なバスなんだ。そう納得するしかない。灰色の後悔が、ふわりと胸をよぎる。


 ううん、後悔することなんかない。最高じゃん?

 佑香はかぶりをふって、腕をくんだ。
 いいんだ、もう帰ってこれなくたって。


「次は、さよなら町~さよなら町。お降りの方はお足元にお気をつけください」

 錆びた車輪が軋むような音をたてて、バスが停車する。

窓の向こうには、鬱蒼とした夜の森が広がっていた。


バスのそばには、鉄塔くらいの大きさの大仏が建っていた。
大仏は電飾を這いめぐらされ、ピカピカとカラフルに光っている。


 なんじゃこれ。あんぐりと口をあける佑香を見て、白髭を垂らした老人が笑った。


「変なオブジェが、主にこのバスのバス停なんだよ。長く乗っとると面白いぞ」

「おじいさんは、どのくらい乗ってるんですか」

「かれこれ五十年にはなるかな」

「えー!」

 佑香は驚きの声をあげた。バスにそんなに乗り続けてるって、ウソだよね? トイレとかお風呂とかどうしてんの? 

「降り時が中々つかめなくってね。逃げたい逃げたいと思っとった郷里が、今では恋しいなぁ」

 老人は遠い目になる。

 ロープを首に巻いた男が下車すると、運転手達はヘッドライトをつけた。

「無灯火はいかんからねー!」

 明かりに浮かびあがった情景に、佑香は悲鳴をあげそうになった。


びっしりと密集した木立の隙間に、振り子のごとくゆらゆらする人型の物体がいくつもあったのだ。

目を凝らさずとも、それがなんなのかすぐにわかった。

「首吊り……」

 中学生がひきつった声を漏らした。

 運転手達はそんな情景には気にも止めずに、バスを発進させた。
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