異次元バスでGO!
 帰ったらまたぐちぐち考えて、また嫌になって、このバスに乗りたくなるかもしれない。


でも、今はもう、早く家に帰りたくなっていた。


ここでは、怒っても愚痴っても絶対に乗客以外には届かない。


憤りや訴えたいことは、家族にも親友にも永遠に伝わらず、佑香はあの町では何も言わずにただ消えただけになってしまうだけだ。それは、とても寂しいことに思えた。


 みんな嫌になっただけで、別にみんなが嫌いになったってわけじゃなかったんだ。


 口元が震える。嗚咽が漏れそうになるのを、グッとこらえる。


 バスはぐんぐん進む。どこをどう走っているのかもわからない。


『もう二度と、ここには帰ってこれないんだよ!』

 必死に叫んでいたおばさんの顔が、脳裏をかける。


 帰りたい。

額に冷や汗が浮かぶ。全身が緊張して、体中が痺れてくる。

「帰りたくなったかね?」

 タマゴが、にぃっと口端をつりあげたのが、バックミラーに映る。


「か、帰れんのか?」


 中学生が振り返ると、運転手達はスイッチが入ったように笑いだす。

ハンドルを遊ぶように回転させて、ジグザグ走りを始める。

「帰れるわけがないだろう!」

運転手達は、口端を裂くようにして叫んだ。


 吊革が首吊りみたいに揺れるのを、佑香は青ざめながら見つめた。


「次は、蛇のはらわた~蛇のはらわた~」


 運転手達が歌うようにアナウンスした瞬間、急ブレーキがかかる。


ばたばたと折り戸が開き、一呼吸置いて閉まる。バスは急発進する。


 ぬめっとした生臭い場所から、遠ざかる。


 いつまで続くんだろう。どの停留所でも降りる気がしない。


 五十年。
 先程、白髭のおじいさんが話していたことが、重たくのしかかってくる。
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