異次元バスでGO!
 佑香達は転がるようにして外へ出た。

 蒸し暑い、夏の夜気が懐かしい。眼前には、あの奇特な鉄塔オブジェがそびえている。


緊張がほどけて、涙が溢れた。


 プップーと軽快にクラクションが鳴る。佑香は、バスに頭を突っ込んでおじいさんにお礼を言った。


「おうちがあるといいね」

 おじいさんは奇妙な笑みを広げ、愉快そうに声をあげて笑った。


 排気ガスを吐きながら、蛇行して走り去るバスに佑香が手を振っていると、中学生が頓狂な声をあげた。


「なに?」と振り返り、佑香は眉をひそめる。


 ここは空地で、鉄条網に囲われていて、少し離れた所に町並みが見えるはずだった。


なのに……むさ苦しい木々に視界を阻まれた。


「木?」なんで。


佑香は、ぎゅうぎゅうと茂った木の間を、町があるはずの方向へ、小走りになりながら進んだ。


木の根や堆積物に足をとられて、なかなか前へ行けない。汗だくになって草をかき分けていくと、遠くで点のような光がちらついた。



 やっとのことで光の中へ這い出て、愕然とする。


原子模型みたいな奇妙な建物が並んだり、空いっぱいに浮遊したりしている、冷たい銀色の都市が現れたからだ。


 佑香達は丘の上にいて、下におりられるなだらかな階段がある。


膝ががくんと震えて、尻餅をつく。腰が抜けて立てなくなった佑香の背後で、中学生のかすれた悲鳴があがる。


「なに? これ。どこ、ここ」

佑香は、呆然として呟く。


 ふと、おじいさんの言葉が蘇る。歪な笑顔を浮かべていたおじいさん。

『おうちがあるといいね』


 あれって、どう意味だったんだろう。

 どこかでサイレンが唸り、ピンクのサーチライトが上空の原子模型群から放たれる。


無数の光の柱が蝶のように舞い、やがて視点を定めたように佑香達へと絞られた。


ぼぉっと、いう低い音があたりに響き渡る。

空にある原子模型群が割れて、宇宙服みたいなものを着た人型のものが、バラバラと落下傘でおりてきた。


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