異次元バスでGO!
 そのあとは少し噂と距離をおいて、遅れてバスの噂を聞いた子達が本当にバスが来るのか何度も確かめに行くのを、小バカにしながら眺めてみたりしてたけど、今度はその子達の一人がいなくなった。


 大規模な捜索が行われたが、やっぱりこの子も出てきていない。鉄塔付近へ子供が行くのは禁止になった。


塔の回りに、鉄条網が巡らされたのも、その頃だ。


「バスなんて来るわけないのに、あんなん作っちゃうなんてバカだよね」

 いつかの学校帰り、佑香が言うと

「もしかして、バス来るのかも」

 マリエちゃんは、眉根にしわをよせて言った。

「大人も噂、信じてるのかも」

「ないよー」
 佑香は笑ったが、マリエちゃんは笑わなかった。

「信じてなかったら、あんな網作んないんじゃない? 不審者が心配なだけなら、監視カメラ置いたりすればいいだけだし」



 カメラがあればよかったのに。

佑香は息をきらしながら鉄条網へ走る。

刺々しい網には、南京錠で閉ざされた扉があったが、今、鍵は外されていた。

 扉があいてる!

 空地の中へ飛びこみ、佑香は呆然とする。

「やっぱバスだ……」

 鉄塔オブジェがきらりと光る。その根元には、くすんだ金色のバスが停まっていた。


 ありえない。

 おっかなびっくりバスへ近づく。窓は夕日を反射していて、中がよく見えない。けれど、ひっそりとしていて人の気配は感じない。


 ケータイ、ケータイ。

 ジーンズのポケットをさぐってみるが、ない。忘れてきたかー。佑香は肩をおとす。


気を取り直して、車体に沿って一周する。まわりの草地には、タイヤで走ったような跡がなかった。

まるで、何年も前からそこにあったみたいに、バスは佇んでいる。


 ドッキリとか? だとしたら、誰が誰に仕掛けてんだよ。イタズラ? あー、新しいオブジェか、な?


 開いたドアから、ひょいっとステップにあがる。


バスの中を覗くと、一つの首に二つの頭を持つ青年が、ニュッと顔を突きだしてきた。
< 5 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop