異次元バスでGO!
「ぎゃあー!? オバケ」

 佑香が思わず悲鳴をあげると、二つの頭を持つ青年は二つの顔を見あわせ、四本の眉をつりあげた。


眉毛がふさふさした、くっきりした目鼻立ちの白人だ。どちらともそっくり同じ顔で、群青の制帽を頭にのせている。


「お化けなもんかい」

 右の顔が唇を尖らせる。

「そうそう。結合双生児って知らない? 体の一部が繋がって生まれちゃった双子」

左の顔が、血色のいい頬を皮肉っぽく緩めた。


 佑香はハッとした。そういえば、なんかのテレビでそういうの見たことある気がする。ちょっとかわいそうなテレビだった。

「オバケなんて言ってごめんなさい」


しゅんとして佑香が謝ると、左の顔が口笛を吹いた。

「今、かわいそうって思ったろ? 気にするなよ、慣れっこだからさ」

「同情はいらないや。必要なのは切符さ! ないんなら乗せないよ」

手袋をした右手が、ツンと差しだされた。


 切符? そんなもん……。じっと考えこんでいると、強引に手をひっぱられた。


「あるじゃないか! 墓石の欠片が」

 自分の手から奪われたうすべったい石を認め、佑香はげんなりした。


 う、あんなん今まで持ってたんだ……捨てたつもりだったのに。しかも、切符が墓石の欠片って、まじで? 


 青年達は墓石の欠片に頬ずりしてから、佑香をバスに引きこんだ。

「早く座りな、もうすぐ出発だ」

運転手は腕時計を確かめ、クラクションを鳴らす。

 佑香は場にのまれた感じで、バスの中を奥へと歩いた。

 運転席のすぐ後ろには、よれよれのスーツに身を包んだ無精髭の男が座っていて、数列先には学ランのお兄さんが陰気な感じで窓にこめかみをあずけている。
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