異次元バスでGO!
「やあ。切符、役にたっただろう?」

一番後ろの席で紅白卵型おじさんが腕を振る。

 うわ、さっきの! 居たし。


 佑香が硬直していると、卵おじさんはサッと頬を赤くして唐突に怒りだす。


「なんだ君は! お礼くらい言いたまえ」

卵おじさんの勢いに押されて、頭をさげる。


 卵おじさんは途端に態度を軟化させ、ふむふむと頷く。彼の隣で、真っ白な髭を蓄えた仙人みたいなおじいさんが、微笑んだ。


「せっかくのお客さんを怖がらせるなよ、タマゴ。悪かったね、お嬢さん。こちらに座ってはどうかな」


 手招きされて、おずおずと足を進めた。彼らの前の座席に腰かける。


 ていうか、あのおじさん、タマゴって名前なんだ? 

 そわそわしながら、車内を見回す。


何列か前の席に、こちらを心配そうに眺めるおばさんがいた。佑香の母くらいの年だろう。目があうなり、彼女は立ちあがってつかつかと歩いてくる。


「降りるよ」

 乱暴に腕をつかまれ、佑香は眉を歪めるが、おばさんはグイグイひっぱった。
「これは子供が乗るバスじゃないんだから。そこのお兄ちゃんも!」

 学ランのお兄さんが身じろぎして、キッとこっちを睨みつける。

「うるせーよババア」


「はいはい、もう」

 おばさんは、暴れるお兄さんの腕もガッチリつかんでバスの出入口にむかう。

佑香は、ぞんざいに扱われるのに腹が立って手を振り払おうとしたが、力が強すぎて叶わない。

「ちょっと! 放してよ」

「放せババア!」 
佑香達は、同時に叫んだ。

「放してやってくださらんか」

 ふわふわした髭を撫でながら、最後部座席のおじいさんが言う。


 おばさんは目の回りを朱色に染め、唾を散らしながら叫んだ。

「ふざけないで! こんな子供が乗るのを止めないなんて。あんた達、酷すぎる」

「子供だからといって、差別はいけません」

 タマゴが欠伸をしながら呟く。
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