異次元バスでGO!
「差別!? 話しにならない」

 おばさんが、佑香達をぐいぐい運転手席のあるほうに押す。

「やめてよ、おばさん。なんで無理矢理おろそうとすんの?」

「やめろよ!」

 学生服のお兄さんが、ガンッとおばさんを殴った。

おばさんがよろめいた隙に、お兄さんはさっさと席についてしまう。佑香もすぐに席に座った。


「……あんた達、このバスがどんなバスか知ってるの?」

 おばさんはお兄さんに打たれたおでこを擦りながら、怖い表情をした。


 もちろんわかっている。いまいち信じらんないけど。

「ここではないどこかにしか行けない、バスでしょ」

 佑香が鼻を鳴らして言うと、おばさんは低く呻く。


「そう、どこかへしか行けないバスなの! 何があったのか知らないけど、あなた達、早く降りなさい。友達やご両親が悲しむよ」

 泣きだしそうな目で訴えてくる。


 佑香は、ちょっと怖じ気づいた。乗車してはいるものの、このバスが不思議なバスだとは、まだ信じきれていない……。


鉄塔オブジェのたもとに、噂通りバスがあった……。だからって、それが、本当にどこかへしか行けないバスだなんて、信じられるもんか。

このおばさん、頭やばいんじゃない? こんな真剣にさとしてくるとか。


 もっとも、もしこれがリアルにどこかへしか行けないバスだったとしても、佑香は降りるつもりはない。


「じゃあ、おばさんは何で乗ってんだよ」


 学ランのお兄さんが、つっけんどんに言う。

「おばさんも『何かあったから』このバスにいるんだろ。で、おばさんの親とか友達とか、子供とかは? 悲しまないの?」


 子供という部分に、おばさんはビクリと震えた。

「……あたしは、いいのよ」

「良くないよ、おばさん子供いるんでしょ」

 佑香が意地悪く指摘すると、彼女は明らかに狼狽した。


「あなた達のご両親のことを思うと……!」
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