異次元バスでGO!
「説教すんなよ。子供捨ててくくせに」
 学ランのお兄さんがせせら笑う。

 おばさんは百面相したあとに、ぷつんと糸が切れたみたく項垂れた。


「借金があるのよ、とても返せない額。逃げるには仕方ないの」

おばさんは、顔をおおって泣きはじめる。


「逃げるにはバスに乗るしかないと思って。子供を施設に置いてきたくなんてなかった。でも、どこに着くかもわからないのに、連れて来るわけにはいかないから……」


学ランのお兄さんは、鼻白んだようにそっぽをむいた。


「おい、出発してもいいかい」

 バックミラーを覗きながら、運転手の双子が口笛を吹く。

おばさんは弾かれたように再び佑香達をつかんで、出入口に引きずる。

「ふざけんな! 借金くらい、一生かかっても返せばいいだろ。俺なんか、もうおしまいなんだよ!」


 学ランのお兄さんの血を吐くような叫びに、車内は静まり返る。


 借金地獄より酷い事態とはなんだろう。佑香は唾を飲みこんだ。両親の離婚、継母のいじめ、万引きしちゃった……とかそんなもんじゃないだろう。人、殺しちゃったとか?


「俺は、俺は頭が悪すぎてどこにも行ける高校がないんだよ!」

 白けた空気が流れる。


 ……はぁ? そんなこと?


「なぁんだ。受験まで、まだ時間あるじゃない。勉強すればいいだけじゃない」
 おばさんが、くっくと笑いをこらえながら口を開くと、学ランのお兄さんは真っ赤になった。


「してんだよ勉強! そんでもわかんねーから終わってんだろ!?」


「お客様方、とっととどっちか決めやがれ。間もなくこのバスは、発車いたしまーす!」

 運転手達が長くクラクションを鳴らす。


おばさんは、物凄い力で佑香達をひっぱる。ついにはバスを降ろされてしまった。


 佑香と学ランの中学生は、目配せしあった。車内に戻ろうとしたおばさんを外へほうりだし、入れ替わりに急いでステップをあがる。
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