ぬくもりを感じて
智樹は包丁の使い方といくつかの切り方を教えた。

「無理に速く切ろうとするなよ。
ゆっくり、自分のペースで材料を切ればいいんだ。
無理すると手を切ってしまうぞ。」


「はい。」


「今日は切ることと煮ることに集中するから、だしはよねさんにとっておいてもらったものを使う。」


「だしって難しいんですか?」


「料理によって使う材料が違うんだ。
だからそれも少しずつやっていくから。」


「はい。」


1時間ほどして煮物を味見してみた凛花はにっこり笑った。


「うわっ、おいしい!
学校で教えてもらったのよりおいしい。どうして?」


「ふふふ、だしがいいってのもあるし、調味料の使い方によっても味は違ってくる。
火をきってから後の味のしみ方もあるな。

凛花が包丁の練習をしていた時間がよかったのかもな。
いい感じでほったらかしになってさ。あははは。」



「もう!まだまだ包丁が使えませんよぉ~だ!
あれ??今・・・凛花って・・・?」


「学校じゃないんだから、いいだろ。
それに、おまえだけ智樹さんって呼ぶのも変だと思ってな。
嫌か?」


「い、いえ・・・いえ・・・凛花って呼ぶの・・・もうお兄ちゃんだけだから・・・お兄ちゃん。
(どうしよう。涙が止まらない・・・。)」



「おい、わかったから凛花もう泣くな・・・。」


「智樹さま、もしかして凛花さまはずっと泣くのを我慢してらしたのでは?」


「あっ・・・そうか。
そうだよ。よねさん・・・こいつ、両親を亡くしていきなり生活環境も変わって、知らない学校にいかされて、料理って壁にぶちあたって・・・負けず嫌いだからがんばってたけど、泣くのを忘れてたんだ。」


「ごめんなさい、よねさんもごめんなさい。
涙が止まらなくて・・・。せっかくおいしく煮物ができたのに。」


「いいんですよ。悲しいときは泣くのが正常なんです。
泣けなかった凛花さまがたくさん泣けてよかったんですよ。

それでは、私は今夜は失礼しますね。」


「お疲れ・・・っておぃ・・・よねさん、このあとどうすればいい・・・んだ?」


「ひっく・・・ひっく・・・私、こんなに泣いたのは初めてです。
料理を習ったのも初めてだし。
大学教授や先輩にいろいろ教わったときには、もっと冷静でいられたのに・・・。」


「大学教授に先輩って?」


「はっ・・・あの・・・近くに住んでいた人で勉強とか教えてもらって・・・。
(まさか、飛び級で大学卒業したとか言えないよ。)
やだ・・・また涙がでてきた。」


「しょうがないなぁ。家だけだからな、学校では絶対しないからなっ!」


そういって智樹は凛花を自分の胸に抱き寄せた。


「きゃあ!(なんだろう・・・お兄ちゃんみたいな・・・でも安心できる場所?)
ご、ごめんなさい。」
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