ぬくもりを感じて
遠藤はニヤニヤしながら、また質問をした。

「確かさっき、君のことを凛花って名前を呼び捨てで呼んでたね。」


「(なんてするどいの!)そ、それはちっちゃいときから、妹みたいなものだからで・・・深い意味はないと思います。
ふだんはよねさんっていうお手伝いさんと私はいっしょにいるし・・・。」


「そう、じゃ、今度の休みにでもおじゃましようかなぁ。
家庭訪問するはずの担任の家に住んでいるんじゃ、誰かが勉強部屋を見せてもらっておいた方がいいだろうからねぇ。」


「えっ・・・は、はぁ。
アメリカから移って間がないので、部屋は殺風景ですけど、ご覧になりたいならどうぞ。
よねさんにも、いいお茶菓子があれば用意しておいてもらいます。」


「そりゃ、楽しみだな。
じゃ、早く教室へお帰り。
お薬と湿布薬もちゃんと使ってね。
またねっ!」




その日、智樹が帰宅したのは夜10時半だった。


「おかえり。よねさんが用意してくれた夕飯、あたためますか?」


「おお、助かる。ちょっと着替えて顔洗ってくるから、準備しておいてくれ。」


凛花が智樹の夕飯を用意し終えて、テーブルに並べていると、


「例の5人だけどな・・・いろいろ調べてみると余罪がけっこうあってな。
もういじめですませる問題じゃなくなってた。」


「そうなんですか・・・。」


「親は居ててもろくに実の子どもなのに話もしないような、冷たい家庭の子が多くてな。

被害者は片親だったり、いなかったりって子が多かったらしい。」


「それで・・・私も・・・。」


「たぶんな。親がいても苦しい生活を送ってる子どもを知ってほしかったんじゃないかっていう意見もあったよ。
職員会議しててさ。」


「私はここに置いてもらえて、通わせてもらえてほんとに感謝しなきゃですね。」


「いや、僕はそういう意味で話したんじゃない!」


「僕は男兄弟だけで育ったから、妹ができて・・・うれしいというか・・・妹ってかわいいなって思えてきたところだ。

ムキになってタマネギの皮をむいているところとか・・・ネギをきざんでいるところとか・・・わさびが入ったしょうゆをなめて顔をしかめているところとか。」


「それって・・・泣きそうな顔ばかりじゃ!!!」


「そうか?そうだな。あはははは。
まぁ、いいなって思ったんだ。
親のために食事を作っていたときとは違って、すごく楽しいなって思った。

それは君が男だったらそうは思わないだろう感情だと思う。」


「よろこんでいいのかどうか・・・わかんない。

あ、そうだ、遠藤先生が今度の休みに家庭訪問するって。」


「えっ!?ここにか?」


「はい。」
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