ぬくもりを感じて
それからというもの、凛花の生活費は毎月18日にはきちんと口座に振り込まれるようになった。

瑞歩の給料からということだったが、瑞歩本人からは電話もない。

しかし、智樹宛てのメールで、生活費だと言ってきたらしい。


そして智樹の家とときどき行き来もしながら、凛花の高校生活1年が終わりを告げた。

2年になって智樹さんは担任ではなくなった。

智樹さんはまた1年生を受け持つことになって、担任は1年のときの副担任だった水戸藻恵理子先生になった。

水戸藻先生は前年は副担任といっても年齢は36歳で、昨年は育児休暇明けだったからクラスは持っていなかった。


学校ではほとんど毎日の生活はかわらず、2年になった凛花の変化といえば、料理のレパートリーがかなり増えたということだろう。

そして国語や歴史など、凛花の苦手な勉強も智樹が教えてくれたおかげで今では、どこから見ても日本人の普通の女の子に見えた。


そんなある日、凛花の家に瑞歩から電話がかかってきた。


「お兄ちゃんなの・・・。
どうして、今まで何もいってこなかったのよ。」


「ごめんな。悪い・・・俺じゃなきゃできない仕事だったんだ。
俺が化学関係の研究者なのは知ってるよな。」


「うん。」


「それで今まで大樹さんとこの研究所でがんばって、やっとまとめることができた。」


「そうなんだ・・・終わったの。」


「うん。だから、もうすぐそっちへいったん帰るから。
いろいろ話もしたいし・・・智樹にもそういってメールを送っておいた。
詳しい日程が決まりしだい、おまえにも知らせるから。

がんばって勉強して待ってろよ。」


「うん、私ね、智樹さんにお料理を習っていろいろ作れるようになったの。
お兄ちゃんにも食べてもらうから、期待してて。」


「ぉおお、楽しみにしてる。
じゃあ、またな。」



凛花はそれから上機嫌で、学校に登校している。

保健室へ行って、遠藤にも兄が近々帰ってくることをうれしそうに話していた。


「よかったじゃないか。
ずっと声もきけなくて、さびしかっただろ。」


「うん・・・。」


「あれ?元気よく入ってきたと思ったら、そうでもないのか?」


「だって、お兄ちゃんが帰ってきたら、私・・・また引っ越ししなきゃいけないのかなって。」


「そりゃ、ないんじゃないかな。
引っ越しがひかえてるなら、お兄さんはいっしょに住もうっていうはずだろ?
仕事でまたどこか行く予定でもあるんじゃないのか?

それにしても・・・おまえ、前と違うじゃないか。」


「えっ?」


「前はひたすら、兄貴がいないって悲しんでたのに、今は兄貴が帰ってきた方が不安なのか?
それとも、満原先生が気に入ってしまったのかな?」


「そ、そりゃ、いろいろと教えてもらったし・・・よねさんは先生のとこのお手伝いさんだし。」


「それだけ?
変わったのは満原先生だけなのかなぁ・・・そういえば新学期からまたちょっと芋臭い雰囲気になってるけど・・・。」
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