ぬくもりを感じて
智樹と話をして間もなく今日の終了の合図の放送が流れ、凛花はゴミの片付けを始めた。

智樹もコーヒーを飲み干すと凛花とゴミの片付けを始めた。


「先生、もういいですよ。教室にもどらないと・・・」


「そうだな。今日は疲れたろう・・・家ですき焼き作るから家の方に帰ってこい。」


「えっ、行っていいんですか?」


「ここんとこ試験だの、出張だのってずっと家にもどってなかったからな。
みんな寂しがってるだろうし、ちょっと贅沢にな。」


「わぁ、よねさんたちも喜びますね。
じゃあ、終わったらおじゃまします。ありがとう先生。」



「待ってるからな。」




その日の反省会が終わってから、凛花は一度マンションへ戻ってから智樹の家へと出かけた。


「遅かったな、もう肉は煮えてるぞ、手を洗って食っていい。
あれ・・・一度帰ってきたのか?」


「はい、明日も文化祭あるし、受付だと制服に肉のにおいとかついてるとまずいかなと思って。」


「なるほど・・・。」


「あの、せん・・・じゃなかった・・・智樹さん、なんか表情が暗くないですか?」


「それが・・・な。」



すき焼きを食べながら、智樹は明日の演劇部主体の劇について話し始めた。


「演劇部の本来顧問の松尾先生が昨日から盲腸の手術で休んでしまってな、副顧問として僕が部をみてるんだけど、3年たちが白雪姫のパロディ版みたいな話をこしらえていてな、最後の王子と白雪姫のキスシーンのところが嫌だって演劇部の女の子がみんな主役をやりたくないとごねてしまったんだ。」


「でも出し物は変わらないんでしょう?
台本変えれば、問題はなくなるんじゃないの?」


「いや、それが・・・王子役の日下勝真が2年1組の木吹凛花を白雪姫に指名するって・・・言いだしてさ。」


「えぇぇぇえええ!!日下くんが、私を・・・?って、日下くんいつの間に演劇なんて入ってたの?」


「1年のときにおまえに勉強を教えてもらってて、終わったあとくらいだったか、凛花が『日下くんは背が高いし、見た目がいいから演劇部で王子様だったらステキだ』とか言っただろ。」


「はっ・・・そういえば・・・言った気がする。
英語ができるようになってきて、日下くんって口説き文句の発音がいいなって思ったから、なんとなくそう言っちゃった。」


「おい!いい加減なことを凛花がいうから・・・。
ってことで、凛花、明日の白雪姫役を頼むな。」


「だ、だって・・・私。セリフなんて何も知らないんだよ。
今まで何にも誰にも頼まれてないのに・・・そんなぁ。」


「それも、部の女の子がみんなやりたくないっていうのに、私がそんな・・・困りますよ。」


「君なら、アメリカ帰りだし、形だけのキスくらい絵になるって思ってるんじゃないかなぁ。」


「そ、そんなの・・・そりゃ、おやすみのキスとか挨拶のキスはしてたけど・・・。
それに日下くんがどんなふうにするのかもわかんないのに。」
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