ぬくもりを感じて
凛花は全身の力が抜けてしまい、その場に座り込んでしまった。

「わ、私・・・もう受け取れません。」


「はぁ?」


「もうプレゼントなんて、いりません!」

そうつぶやくとすばやく立ち上がり、自分の寝室まで走ってもどっていった。


「しまった・・・。ファーストキスもまだなのに、やりすぎた。」



翌朝、智樹が台所へ行ってみると、凛花の姿はなく、庭に出て朝一番に手入れをする庭師にきいてみると、彼が来た直後に凛花が走って出て行ったということだった。


「凛花・・・ごめん。」



文化祭の会場で凛花はびくびくしながら受付をしていた。


(先生に会ったらどうしよう・・・何も言わないで出てきちゃったし・・・。
でも、あんなことするんだもん。どんな顔をしたらいいの?
会うのが怖い・・・。)



「おはよう、ちょっといいかな?」


「日下くん・・・」


「あのさ、今日の演劇部の出し物で頼みがあるんだ!」


「キスシーンは困ります。絶対、ぜーーーーったいしませんから。」


「なんで、キスシーンのこと知ってるの?」


「それは・・・満原先生がそんなことを・・・言ってたから。」


「それなら話が早い!キスシーンは形だけだから、ほんとはしないよ。」


「でもそれならどうして、演劇部の部員の人としないの?」


「みんな、俺が王子役だと逃げてしまってさぁ。
近寄っただけでもダメだって・・・ひどいよなぁ。
まるで、バカがうつるみたいな言いぐさでさ。

俺もつい、木吹なら芝居するだけなんだからやってくれる!って言ってしまったんだ。
ごめん!すまん!
セリフとかは覚える必要はぜんぜんない。

前半の白雪姫と王子はべつの奴らで芝居するから。

でも、最後の白雪姫が目覚めるところは、俺が押し付けられてしまって・・・。
誰もやってくれなくてさ。
先輩に、王子役を変えてくれるようにも頼んだんだけど、変えてくれなくて。

木吹に迷惑かけないように口の上に肌色のシートつけててもいいから、ダメかな。」



「ぷっ、口の上にシートね。いろいろ考えつくんだ、日下くんって。」


「だって台本を書いた先輩のいうことを全面的にきくのも嫌だろうしな。
俺は木吹なら大歓迎だけど、木吹は女の子だからみんな見てる前でキスシーンするなんて無理だよな。
しかも演劇部じゃないのに・・・わかってるよ。

だからまね事だけするよ。木吹は寝てるだけだから、俺がシートを用意して万が一触れてしまっても大丈夫なようにするから。だめかな?」


「わかったわ。日下くん、今まで私に嘘ついたりしなかったもんね。
そこまで用意してくれるんなら、寝てるだけの役ならやってあげる。」


「やったぁ!ありがとう。
じゃ、そろそろ衣装あわせと場面の打ち合わせだけやっておきたいから、きてくれ。」


「うん、受付の代表の先輩にことわってから部室に・・・」


「俺もいっしょにいって受付の先輩に、木吹を借りること言うよ。」


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