ぬくもりを感じて
凛花と瑞歩がマンションにたどり着くと、凛花の部屋の扉がスッと開き、中から長身で見たことのある瞳をした男性が挨拶をしてきた。


「会うのは初めてだね、遅くにごめんね。」


「あ、あなたは・・・満原大樹さん・・・!」


「えっ・・・大樹さん・・・この方が?」
(いかにもお金持ちそうな身のこなしと、スーツがよく似合ってる紳士だわ。
でも目もとがなんとなく智樹さんと似てる・・・)


「小型爆弾魔を雇っていた責任をとらねばならなくなったニュースはもう知ってるよね。
じつは、このマンションも管理する人間がぜんぜん別の人間になってしまうんだ。」


「私は、出て行かなくてはいけないんですね。」


「大丈夫っすよ。俺がもどってきたし、なんとか2人で働いて俺の家を直しながら住めます。」


「いや、できればなんだが・・・凛花さん、智樹のところへ行ってはくれないだろうか?」


「えっ?智樹さんの家って・・・あのお邸ですか?」


「そうだ。あいつは今まで何も押し付けられずやってきた。
それだけなら、楽しい自由人でいられたんだが、今度のことであいつに引き継いでもらわなければならない事業所ができた。

そうしなければ、満原の家は社員たちに何も貢献しないまま、財産放棄だけしたことになってしまうんだ。
しかし、智樹は今頃、どうしていいか悩んで困っていると思う。

親父が死んだとき、僕も何もかも引き継ぐことがとても怖かった。
翌朝には、教えてくれる部下がそれぞれサポートや教育にあたってくれたんだが、僕には母さんがいた。
だが智樹には、もう母親は亡くなっていないし、相談する相手もいないと思う。」


「あの1つだけ教えてください。
セルジュは・・・遠藤先生は・・・どうしてるんですか?」


「兄の面会に行ったりしているよ。
住まいやその他のことも、心配ない。
僕の家族といるからね。」


「家族?」


「僕は、2年前に結婚したんだ。
最初は政略結婚みたいだったんだが、だんだん意気投合したというか、彼女は実業家の娘にしてはアルバイトが趣味なくらい好きな女性でね・・・。

今回の事件のあともケロっとしてるような女性なんだ。
だから、僕はけっこう勇気と元気をもらえている。」


「そうだったんですか。」


「子どもはまだお腹の中だから、会社を頼むってわけにもいかなくてね。」


「妊娠中なんですね。それは大変・・・気丈にがんばっておられるけれど、大切にしないと。」


「そうなんだ。だからしょっちゅう電話してるよ。あっ・・・かかってきた。」


大樹から電話に出てくれと頼まれて携帯電話を凛花が受け取ると・・・電話の向こうでは女性の声がした。


「凛花です。」


「凛花さん、ごめんなさいね。アパートから追い出すようなことになってしまって。
あっ、申し遅れました。私は大樹の家内の律子です。」


「い、いえ、今お話をお伺いして、律子さんは妊娠されているのに私のことまで気にかけていただいて、ほんとに申し訳ないです。
すぐに大樹さんにはお帰りいただきますので、少しだけ待っていてください。
ありがとうございました。」


「あ、気を遣わなくていいのよ。私はあなたのことも智樹さんのこともきいていますので、みんなが気持ち的に幸せならいいの。
財産的には打撃でも、それは私たちみんなで、これからなんとかすればいいんですものね。
それと、凛花さんには早く会いたいわ。
それじゃ、大樹さんにかわってくれる?」


「はい。」


< 50 / 60 >

この作品をシェア

pagetop