ぬくもりを感じて
2人がバスローブだけを身につけ風呂を出ると、智樹の電話が鳴った。


「はい・・・えっ!兄さんが?
わかりました。これからそちらに伺います。

そうだ、姉さんもよく知っている凛花も連れていきます。
凛花なら話し相手になれますから、大丈夫。
とにかくあせらないで・・・いいですね。」


「どうしたんですか?」


「兄さんが倒れた。
それで、姉さんもあまり具合がよくないみたいなんだ。
流産でもしたら大変だし、ついていてあげてくれないか?」


「わかりました。
すぐ行きましょう。」


2人はあわてて自分の部屋にもどると服に着替えて大樹が入院した病院へと向かった。




個室には面会謝絶の表示があり、そっと智樹が入ると大樹の妻の律子が出てきた。


「律子さん!大丈夫ですか?」


律子はコクンと頷くと同時に足元がふらついていた。
面会室近くのソファに座って、凛花は缶ジュースを律子に渡した。


「ありがとう・・・。
私の体調は大丈夫よ。
急に忙しくなったけれど、会社がすべて倒産するわけじゃないんだもん。
ちょっと忙しくなっただけでね。」


「あの、私みたいな高校生ができることなんてあんまりないのかもしれないけれど、何でも遠慮なく申し付けてください。
私、もう親もいませんし、大樹さんにはお兄ちゃんもすごいお世話になってるし、そもそも爆弾魔騒ぎだって、私の開発した安全装置が完璧じゃなかったから目をつけられてしまったんだし・・・それで律子さんの幸せを奪ってしまったら私・・・責任を感じちゃいます!」


「うふふ・・・真面目な人ね。
私はね、政略結婚で大樹さんのお嫁さんにきたけれど、じつはこっそりと大樹さんのファンで追っかけでもあったのよ。
そのくらい貪欲な女なの。
あなたくらいのときって、けっこう遊んでたと思うわ。

まぁ、安全装置を作れるほどの頭脳もなかったし、友達とクラブやパーティーに出かけて遊んでたかな。
大樹さんのお義父さんがね、私を選んでくださったときは、私はすごくうれしかったの。
だけど、表向きそんな素振りは見せられないから、お上品なお嬢様ぶってたの。

でもね、大樹さんは会社の仕事を覚えながら、私に言ったのよ。
『君は無理にお嬢様の勉強をしなくていいのに』って。
み~~んなバレバレだったの。

それから私は正直に、元気に生きることができたわ。
それにね、その方が大樹さんが喜んでくれるの。」


「そうですね、律子さんが元気いっぱいだから、大樹さんががんばれているのはわかります。
すみません・・・ナマイキなこと言っちゃって。」


「いいのよ。何でもその人なりの本当の姿が見える方が配偶者だったらとくにうれしいと思うわ。
それは私だってそうよ。
大樹さんが時間を惜しんでもやりたい仕事だったら、何とかさせてあげたいって思うもの。

ただ、そろそろもう数的には限界だった。
お義父さまと大樹さんは違う。
だから、手に負えないところは、どんどん皆さんにお任せしていかなきゃ!

智樹さんにも手伝ってほしいの・・・。
でもどうしても嫌っていうなら、代わりの人に渡してもいいのよ。
それは智樹さんに任せる。」


「そうですね・・・いくらお母様が違うからっていっても弟なんですもの。
いったんは背負わないとだめなんじゃないかって私でも思います。」
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