ぬくもりを感じて
智樹の心配
凛花は智樹の邸に住んでいた。

大樹が過労で倒れたあの日から、お互いの体も見ていないし、触れてもいない。


律子のお産もあって、みんな多忙だったからだ。

智樹も学校と研究設備を受け持って、毎日が忙しくなった。

しかし、大樹のアドバイスもあって、仕事がわかる先生やいい部下にも恵まれ、智樹は凛花が卒業するまでは花霧高校で生物教師をやっていられた。



ここ最近の智樹の日課は生物準備室でこっそり昼寝をしていることだった。


今日も、昼寝から目覚めて校舎内を歩いていると、凛花の姿が窓ごしに見えたので声をかけようとすると、凛花のところへ日下勝真が駆け寄っていた。


「どうしたの、日下くん。」


「凛花が学校の帰りに出産したばかりの親戚の家に行かなくてもいいってきいたから、早速息抜きでもって今、この近くにやってきたサーカスのチケットとってきたんだ。
行ってみないか?」


「ほんとっ?サーカスなんて何年ぶりだろう。
ちっちゃいときに両親に連れられて行ったっきりだよ。
うん、行くよ。ありがとう。」


放課後、日下と凛花はサーカスを見に会場を訪れ、凛花は久しぶりに自分の時間を楽しむことができた。


家に帰ると、よねさんが夕飯の支度をしていて、智樹の姿はなかった。


「よねさん、今日も智樹さんは遅いの?」


「まだ連絡はないんですけど、たぶん・・・遅いでしょうね。」


「そう・・・。やっぱり、現場で教えるのはやめないと体を壊しちゃうよねぇ。
帰ってきたら、理事長に徹するように説得してみる。」


「そうですねぇ。智樹さまは、ご自分が仕事に優位にたたないとしない方ですから、今度のようにいくら大樹さまを助けるためとはいえ、抱え込んでしまってはかなりのダメージでしょうから。」


「うん、前は夕飯の支度もいっしょにできたけど、今は疲れて帰ってくるもの。」



凛花がそろそろベッドに入ろうとした頃、智樹が帰ってきた。

「ごめん、遅くなった。
先に寝ていいよ。
外で食べてきたし、僕もすぐ寝るから・・・。」


「そう・・・おやすみなさい。」



翌朝、智樹といっしょに朝食を作って用意しながら、凛花は智樹に提案してみた。


「智樹さん、学校と研究所とでいつもつらそうだから、もうそろそろ生物の先生はやめた方がいいんじゃないかと思うの。
理事長に徹した方がいいよ。」


「それはだめだ。教育の現場にいないと、子どもたちの生の声がわからないだろ。」


「だけど、それなら副担任みたいに時期を限って先生をするとか、やり方はあると思うし・・・。」


「なんで現場から離れろなんていうんだ?
君がボーイフレンドたちと遊びに行きやすくなるからか?」


「そんなわけないでしょ。」
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