ぬくもりを感じて
お昼休みは新しい友達ができたことと、自分のお弁当がかわいいと言われたことにびっくりしながら午後の調理実習に凛花は出た。


「うっそぉ~こんなのわからない・・・。
みそ、醤油は使ってはいたけれど、煮物なんてママは作ったのを見たことがないし・・・どうしよう。」


「凛花どうしたの?」


「祥子・・・私、日本食なんて私ぜんぜん作ったことなくて、基礎がぜんぜんわかんないの。」


「じゃあ、あの素敵なお弁当は誰が?」


「たぶん、今お世話になってるお家のお手伝いさんだと思うんだけど・・・私ぜんぜんわかんない。」


「そっかぁ、じゃ、うちのクラスでいちばんお料理上手なお友達を紹介するわ。
しのぶちゃ~~ん!ちょっと教えて!」


多野坂祥子が連れてきたのは若宮しのぶで、彼女はクラス1、もしくは学年1お料理上手で有名な女子だった。

「しのぶちゃんはとってもお料理上手で、男子たちもしのぶちゃんの料理がほしくて残ったものをほしがるくらいなのよ。」


「すごい!20分ほど煮詰めてとてもおいしくできあがるなんて魔法みたいね。」


「ふふふ、面白いことをいうのね。煮物は大人でもけっこう失敗しやすいの。
私も失敗がないわけじゃないのよ。
何回もやってみればわかるんだけどね・・・今日は野菜の炊き合わせだから野菜本来のおいしさを出さないとね。」


「ねぇ、教科書にある面取りとか乱切りとかって・・・?」


「切り方のことよ。煮物の場合は味がよくしみこみやすくするためや、芯まできちんと火が通るためとか目的があるのよ。
その辺は小学校や中学校の教科書に載ってたりするけどあなたは知らないのよね・・・。

だから、私のやるとおりにまねしてみて。
包丁は持てる?」


「えっと・・・ナイフはあるけど、こういう形のは初めてで・・・。」


結局すったもんだした挙句に、凛花は煮ることだけ覚えたのだった。

材料を切ることは家で練習してくることになった。


負けず嫌いの凛花にとって、日本の家庭科の授業は最大の課題となった。



放課後、智樹の授業の補修を受けた凛花だったが、日下の姿を見ていると、家庭科での自分の姿と重なってどんどん表情が曇っていった。


「ごめんね、俺勉強苦手でさ・・・。」


「謝らなくていいよ、私もダメな科目はぜんぜんダメだから。ふう・・・」


「木吹どうした?ため息なんかついて・・・僕の授業はちゃんとできてるのに?」


「生物や化学や数学はいいの・・・でも、書道とか家庭科とか国語なんて・・・ぜんぜん。
同じ帰国子女でも河内さんはできるのに、私は。」


「河内は帰国子女っていっても1年ほどだから、ほとんど日本育ちだろ。
できて当然だ。
君は、ずっとアメリカだったんだから、わからないだろ。」


智樹は凛花の耳元でそっと囁く。

「帰ってから、練習しような。」

凛花は小さく頷いた。
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