片手で持つアンブレラ
プロローグ
いつも同じ街。いつも同じ電車。いつも同じ帰り道。いつも同じ雑踏…そんなものに飽き飽きしていた。そんなこと言いつつ、自分で変えるつもりなんてない。どうせ、面倒なだけ。たまには着てる服のイメージを変えてみようとか、髪型を変えてイメチェンしてみようとか、思い立つけどすぐ儚く消える。まぁいっか。そんな感じで。
 人よりちょっと勉強ができて、人よりちょっとかっこよくて、大した努力無しに何にでも手が届いた。そんな才能を授けてくれた親には感謝してるし、ちょっと自分でも気に入ってるところでもあるんだ。
 ポツポツと雨が降ってきた、いやそう思ううちに本降りになってしまった。今夜は雨が降るなんて天気予報で言ってたっけ。急ぎ足で階段を降りて地下鉄の駅に滑りこむ。仕方ない。今日は地下鉄で帰ろう。幸い大事な講義の資料は防水性のプラスティックケースに入れておいてよかった。急いでないし走るのも面倒だから次の電車に乗ろう。雨のせいか人が多い。自分が嫌いな状況だ。ホームにエスカレーターが着くと、目の前で電車が行った。通勤ラッシュ時ということもあってサラリーマンやOLばっかだ。乗らなくてよかった。並ぶ場所の一番前に立ち、カバンから本を出した。ミステリーは好きだ。大好きではない。暇潰しの相手になってもらうだけだ。だが不運なことに、小説はあと10ページだけしか残ってなかった。ツイてない。電車はあと2分後。ぼーっとして待ってるのもいいが、ここは音楽を聴こう。適当に再生すると、イヤホンからOne Directionが流れてきた。アップテンポな曲。所詮自分には似合わない。
 トンネルがライトに照らされるのが見えた。あと何秒かで電車が駅につく。そして電車の姿が目に入った。快速だ。早く家に帰れる…そう思った瞬間、背中に強い衝撃を感じた。線路が近づいて来る。誰かの悲鳴らしきものが聞こえた。自分の身に何が起こったのか理解した時にはもう遅かった。

━━━━━電車の眩いライト。それが最後の記憶。
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