冬夏恋語り
キャットベッドにいた猫たちが、そろってコタツのそばにやってきた。
コタツ布団に身を寄せて並んで座る。
井上さんが慣れた手つきで二匹の背中をなでると、とろけるような顔になりゴロンと横になった。
さすがトリマー、猫のツボを心得ている。
「この子たち、仲良くしてますね」
「マンチカンは人懐っこいからね。
好奇心も旺盛だけど、ほかの猫を認めることができる賢い猫だよ。
二匹の相性も良かったんだね」
店長の専門家らしいコメントに、みなでうなずいた。
電気店から 『ニーナ』 に寄ると、寒いね、鍋の季節だね、コタツが恋しいねと、そんな話がかわされていた。
井上さんが、実家から白菜が送られてきたが食べきれない、恋ちゃんにおすそ分けしたいと言い、寒くて昨日コタツを出したんですよ、ウチで鍋しませんかと恋ちゃんから誘いがあり、速攻話がまとまった。
俺と店長が酒と白菜以外の食材調達を引き受け、ミューを連れて恋ちゃんの部屋にやってきたのだった。
「ベッド、ありがとう」
「こちらこそ、あのままもらっちゃって。タァー、気に入ってるみたいです」
バス停で、辛そうな恋ちゃんに差し出したキャットベッドは、抱えたまま彼女が持って帰った。
帰宅して、俺に返し忘れたと気がついたが、恋ちゃんの猫のタァー君がベッドを気に入り、取り上げることができなくなった。
代わりに同じものを取り寄せますと言われていたため、今日 『ニーナ』 に届いたベッドを受け取り、そのままここに持参した。
連れてきたミューは、ベッドが気に入ったようだ。
「それで、誤解は解けたの?」
「えっ?」
「麻生さんのお兄さんのこととか、西垣さんの教え子の女の子のこととか」
「まぁ、はい」
店長の問いかけに返事をして、恋ちゃんと顔を見合わせて小さく笑った。
「あれぇ、その顔、なんか意味深ですね。おふたり、いい感じになったのかな」
「そっ、そんなことないです。もぉ、井上さん、変なこと言わないでください」
「あら、麻生さん照れてる。西垣さんも」
「べっ、べつに、照れてなんて。あっ」
姿勢をただそうと座りなおした足が、隣の恋ちゃんの足に触れた。
ごめん……と謝ったつもりが声にならない。
彼女も、いいえ、というように少し首を振っただけ。
コタツの中で足が触れただけなのに、秘密を共有した気分になる。
なんだか知らないが顔が火照ってきて、あわてて話題を変えた。
「そうだ、学祭に行きませんか。チケットをもらったんだけど」
「学祭? あぁ、大学の学園祭だね。ポスターを見たよ。
懐かしいなぁ、いまどきの学生さんって、どんなことするの?」
うまい具合に店長が応じてくれたことにホッしながら、ポケットを探り三枚のチケットを取り出した。
「昔とそう変わりませんよ。模擬店が多いですね。
で、もらったチケットがこれなんですけど」
「メイドカフェは聞いたことあるけど、執事カフェって? お屋敷にいる執事?」
「執事服を着た男性が、”お嬢さま、おかえりなさいませ” って迎えてくれるんですよ」
「井上さん、詳しいですね」
「そういうの好きな友達がいて、誘われて一回だけいったの。お姫様扱いしてくれるのよ」
「わぁ、楽しそう」
お姫様というキーワードに恋ちゃんが興味を示し、一緒に行きます? とその気になっている。
店長もメイドが気になるようだ。
「これ、どうぞ。僕はまたもらえるので」
「いいんですか? 麻生さん、私、あさって休みなの」
「あさって、私、午後から空いてます」
「僕もメイドカフェに行ってみたい気もするけど」
この歳で学祭に一人で行く勇気はないんだよね、と店長に言われて案内役を引き受けた。
イラ研の店に行くなら、北条愛華に声をかけなければならない。
その前に店長に説明しておくか。