冬夏恋語り


休日の朝、布団にくるまって足元もぽかぽか温かい。

このまま昼まで寝てようか。

予定もなければ、家に持ち帰った仕事もない、ゆっくり起きればいいや。

二度寝を決め込んでから思い出した。

あっ、林店長を学祭に案内する約束だった、と。

そろそろ起きるか……

薄く目をあけると、目の前にミューがいた。

おまえ、早起きだな、と話しかけたとき、マンチカンがもう一匹あらわれた。



「あれ?」


「おはようございます。コタツ、窮屈だったでしょう」


「ぜんぜん……おはよう。また泊めてもらったんだ」



前にも似たような朝があった。

あのときは記憶を呼び戻すまで多少の時間を要したが、今日は恋ちゃんの顔を見た途端、ちゃんと思い出した。

4人で鍋を囲んでたらふく食べて飲んで、途中で眠くなり 「少し寝かせて」 と横になってそのまま朝まで寝てしまったのだ。

この前は、ふかふかのラグの上に肌布団だったが、今朝は腰から下だけコタツに入り、上半身には羽毛布団と、寝心地の良い枕まで借りている。

自分の家のように熟睡して、目覚めの良い朝を迎えた。

我ながら遠慮のないものだと呆れるが、それだけここの居心地が良いともいえる。



「店長と林さんは? 先に帰ったの?」


「まだ……起こした方がいいかな。よく寝てるみたいだから、声をかけにくくて」



ふたりは、コタツの反対側に寝ているのだろう。

大人が4人寝ても余裕のあるコタツは6人用か? と電気店で見たコタツを参考にサイズを考える。

ひとり暮らしには大きすぎるコタツを誰と使っていたのか。

見たことも会ったこともない、もうこの世にはいない男の姿をぼんやり想像した。



「店長は休みだって言ってたね。お店も休みかな」


「林さんはどうでしょう、聞いてないけど」



俺が起き上がった時にできたコタツ布団の隙間から、ミューが中にもぐりこんだ。

まだ睡眠中のふたりの邪魔にならないよう、ミューを外に出そうとして布団を持ち上げて……

見えてしまった、というか、見てしまったというべきか。

絡まったふたりの足と、林さんの腰を抱く店長の手が目に飛び込んできて、ミューの背中をつかんであわててコタツ布団を降ろした。



「えっと、いま何時だっけ? 7時半か。『ニーナ』 の開店は10時だったね。

まだいいんじゃない?」


「8時になったら声をかけようかな」



うん、もう少し寝かせておこうよと話を合わせた。

なんでもないふたりだと思っていたら、実は親密な関係だったと知って、実のところあたふたしている。

店長のあの手は偶然そうなったとは思えない、彼女の腰をしっかり抱いていたのだから。

テーブル越しに横たわるふたりに目を向けた。

コタツ布団を首元までかぶっているが、見た目は行儀よく横たわっている。

店長と井上さんがそんなことになっているとは、恋ちゃんは気がついていないだろう。


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