冬夏恋語り
「食事とか生活習慣の違いって、一緒にいたら慣れるかなと思ったけど無理ですね。
はじめは我慢したり、相手が変ってくれることを期待したけど、だんだん不満が出てきて、私も彼も自分のやり方を譲れなくて。
譲れないことが増えてきて、じゃぁ別れるかと言われて、そうだね、って話をしていたとき、男の子がおぼれてるのに気がついたんです。
彼、そのまま川に飛び込んで……
別れ話のあと、永遠の別れがきたから、心の準備もできてなくて、ずっとふわふわしてました」
ものすごく重い話をしているのに、全然そんな感じはない。
バス停でうつむいた顔は辛そうだったが、目の前の顔に陰りは見られず、さばさばした感じさえある。
そして、今日の恋ちゃんはよく話す。
俺に聞いてほしいのだろう、とことん聞くつもりだ。
「指輪は、彼が買った物じゃなかったんです」
「指輪って、あの婚約指輪?」
「彼の一周忌のとき、その指輪良く似合ってるわね、私が選んだのよって、お母さんに言われて、びっくりしました。
彼が私のために選んでくれたとばかり思ってたのに、そうじゃなかった。
それから指輪が軽く感じられて、愛着もなくなっちゃいました」
彼の母親が、息子が結婚をほのめかしたため、いつか必要であろうと先に準備しておいた物だった。
婚約指輪の存在を、彼は知らなかったんですよと言う恋ちゃんの顔は、悟っているようでもある。
「それでも彼の家族と付き合いを切れなくて、うやむやにしてましたけど、もういいかなと思えるようになって」
「そうなの?」
「西垣さんからもらったキャットベッド、効果絶大でした。
ぎゅーって抱きしめてたら、気が楽になってきて、吹っ切れました」
「役に立った?」
「とっても」
あの夜、彼女は気持ちに区切りをつけたのだろうか。
俺の想像を裏打ちするように、恋ちゃんは彼との別れの場面と食べ物の話を同じように語り始めた。