冬夏恋語り


二年を長いと感じるか、短いと感じるか、人それぞれである。

再婚した愛華さんと久光さんに長女るりかちゃんが誕生し、その子がひとり歩きするまでに成長する時間は長いと思うが、

十数年ぶりの子育てに、忙しくも楽しい時間を過ごしているふたりにはあっという間だったそうだ。

愛華さんと久光さんの長男龍太君は、現在アメリカの大学で学んでいる。

映像に興味があり、海外留学の夢を持っていた彼は、18歳で日本を飛び出した。

龍太君との暮らしを楽しみにしていた久光さんは、寂しさを隠しながら息子を応援し、龍太君のために蓄えてきた養育費を留学費にと彼に渡した。


愛華さんと恋雪の弟である麻生家の長男翔太君は、地元に残り俺が勤める大学に進学した。

年上の彼女の北条愛華との付き合いは続いており、ふたりが中心になり立ち上げた 『麻生漆器店』 のオンラインショップは、店の売り上げに大いに貢献している。

麻生の両親はまだ地方住まいで、龍太君の留学後、翔太君は麻生の家でひとり暮らしになったが、彼女がせっせと通って面倒を見ているらしい。

早くも 『麻生漆器店の若旦那』 と呼ばれている翔太君は、跡継ぎの心構えがしっかりできており頼もしい限りだ。


『ペットショップ ニーナ』 の店長林さんとトリマーの井上さんも結婚して、1歳数か月の子どもがいる。

「子どもができたので入籍しました」 と 『小料理屋 なすび』 のカウンターで聞いたのは、おととしの春だった。

それを聞いた 『なすび』 のおかみさんが、



「きっかけって大事だと思う。

この歳になると、勢いで結婚なんてできないもの。

でも、結婚しなくても、誰かと一緒にいたいわね。

そんな人、どこかにいないかしら」



黙々と包丁をさばく板さんを、チラッと見ながら言ったあとだった。



「俺はおかみさんのそばにいます。どこにもいきませんから」



板さんの突然の告白に店内は静まり返ったが、「いよっ、おふたりさん!」 との林店長に掛け声で歓声と拍手がおこった。

その後、おかみさんと板さんも入籍して、ふたりで仲良く店をやっている。


ハルさん、ミヤさん、ヨネさんのご隠居三人組はますます元気で、『麻生漆器店』 友の会特別会員サロンに、毎日のようにやってくる。

友の会をはじめた頃は単なる会員の交流の場だったが、現在は情報交換の場であり、商店街の事務局の役割も務めている。

ネット社会にはないリアルな付き合いが人を惹きつけ、人を集めるのだ。

日本の伝統工芸品を扱う 『麻生漆器店』 だからこそ、このような友の会が存続し大事な役割を果たしているのではないかと、俺は思っている。





桜の咲く頃をめどに片付けるコタツに未練を見せる俺は、今年も恋雪に呆れられた。

春らしく部屋を整えて気分を変えるのだと恋雪は言うが、コタツと猫のぬくもりは手放しがたい。

二匹の猫たちもコタツの撤収に反対じゃない? とささやかに抵抗してみた。
 
俺の意見は通らず、今日は片付けますと宣言されて、使い納めだねと言いながらコタツで朝食を食べた。

白米、大根葉と油揚げの味噌汁、鮭の麹焼き、厚焼き玉子ときんぴらごぼうが食卓に並ぶ。

『恋雪食堂』 は、あれからずっと続いている。

朝も夜も、休日は昼食も恋雪の料理を味わっている。


休みになると、ほぼこの部屋ですごし、ご隠居さんたちから 「妻問婚」 を実践しているのかと冷やかされるが、その状態に近い。

自分の部屋は増え続ける本で書庫と化し、そこでなければ仕事にならず、書斎として使っている。

疲れたら恋雪の部屋へ行き、体を休めて食事をとり、マンチカンと戯れながら恋雪と語らう。

俺だけが、二年前と何も変わっていない。


< 155 / 158 >

この作品をシェア

pagetop