冬夏恋語り
羽毛にくるまれたような温かなぬくもりを感じながら、満たされた思いに浸るつもりが、まぶたの裏に浮かぶのは昨夜のことばかり。
忘れてしまいたい記憶は、幸せな時間の邪魔をする。
マコちゃんやヨーコちゃんやみんな、さぞ驚いただろうな。
兼人さん、呆れたかも……
ヨーコちゃん、報告してって言ってたけど、なんて言えばいいの?
そういえば、亮君と話をしていた女性、置いてけぼりにしちゃった、あれからどうしただろう。
走る私たちの背中から、多くの声が飛んできた、拍手もすごかった。
ということは、たくさんの人が私と亮君を見ていたということ。
はぁ……思い出すと恥ずかしい……
背中に伝わる彼の鼓動を感じながら、私はもろもろの後悔にさいなまれたが、恥ずかしさに見舞われても、どんなに悔やんでも、もうあと戻りはできないのだ。
こうなったからには、今更じたばたしてもどうにもならない。
『あとで考えよう』
あまたのことで渦巻く感情をクリアにするために、とりあえず煩わしい事柄を頭から追い出した。
そうよ、あとで考えればいいのよ、なんとかなるでしょう。
小さなことで思い悩むことの多い私にしては、今朝は珍しくポジティブだ。
気が楽になったところで、これからどうしようかと考えた。
軽い空腹感もある、まずは食べることかな、朝食を作って彼と一緒に食べようか。
昨夜は、友人たちと話に夢中で、あまり食べられなかった。
そうだ、お土産に買ったマロンタルトがあった。
帰ってから家族とお茶しようと思って……
そこまで考えて、重大なことに気がついた。
「あーっ!」
「うぅん……どうしたの」
「どうしよう。ねぇ、どうしよう」
「なにが?」
「家に連絡してない。わぁーっ、うちの親、きっと大騒ぎしてる」
「電話したよ」
「えっ?」
背中から聞こえてきた眠そうな声に、首をひねり亮君を見上げた。
「俺、深雪さんちに電話しました」
「いつ!」
まだ眠いのか、亮君のまぶたは半分しかあいてない。
睡眠不足はわかるが、ここは起きてもらうしかない。
「うーん、何時頃だったかな。夜遅かったけど、連絡だけしとこうと思って」
「なっ、なんて言ったの?」
「遅くなったので、深雪さんはウチに泊めますって言っときました。
無断外泊はまずいでしょう」
確かに無断外泊はまずい、まずいが、そんな正直に言うなんて、親はさぞ仰天しただろう。
「それで、ウチの親はなんて」
「よろしくお願いしますって」
「父がそう言ったの?」
電話には母が出たそうで、いたって普通の対応だったらしい。
母がでたから良かったものの、これが父だったら……
帰宅して、父と顔を合わせるのが恐ろしい。
はぁ……
深いため息がでた。