「異世界ファンタジーで15+1のお題」三
008:描かれた波紋




「ルシアン、待って!
そっちに行っちゃいけないわ!」

息を切らして追いかける少女の前を金色の髪の少女が走り抜ける…




「メリッサ、あなたは本当に心配性ね!
大丈夫よ。
いくら私だってここから先には行かないわ。」

金色の髪の少女は不意に立ち止まり、後ろを振り向いた。



「本当かしら?あなたには無鉄砲な所があるから心配だわ。」

追いかけて来た少女も、同じように透き通るような金色の髪をしていた。



ルシアンは、大きな翼を広げそのまま飛びあがると、高い木の枝に腰掛けた。
メリッサもすぐにその隣に並んで腰掛ける。
その木には、真っ赤な林檎のような実が実っていた。
果実の甘い香りを含んだ気持ちの良い風が、二人の頬を優しく撫でる…



「メリッサ…あそこには一体何があるのかしら?」

「さぁ…」

「あなた、そんなことは考えたこともないって顔ね。」

「その通りよ。
あそこに近付いちゃいけないってことは、天界の者なら皆知ってることですもの。
きっと良くないものがあるに違いないわ。
そんな怖ろしいもののことなんて考えたくないもの…
本当はここまで来るのだって嫌なくらいよ。」

「メリッサ…あなたはまだ若いくせにどうしてそう物分りが良いのかしら…
私は昔からあの場所が気になって仕方がないわ。
近付いちゃ駄目なのなら、なぜ駄目なのか説明するべきよ!
でも、誰も教えてはくれない…それは、誰も本当のことを知らないからだわ。」

「本当のこと?」

「そうよ。
本当はそんな怖いものじゃないのかもしれないし、もしかしたら何もないのかもしれない。
きっと本当は何もないのよ。
だって、私は何度もここへ来て、この場所からあそこを見たけど、なにもないんだもの。
メリッサもそれは知ってるわよね?」

「そりゃあ…あなたに連れられて私も何度かここに来たけど、確かに何もないわ。
でも、やっぱり駄目よ。
近付いちゃ駄目だって言われてる場所には、近付いちゃいけないのよ!」

「あ~あ…あなたってつまらない人ね。」

ルシアンは手を伸ばして果実を掴み取ると、そのまま一口頬張った。
メリッサは、そんなルシアンをただ黙ってみつめていた。



「つまらない、つまらない!
本当になにもかも面白くないわ!」

ルシアンは枝の上に立ち上がり、禁忌の場所に向かって果実を投げた。
真っ赤な果実は、緩い放物線を描きながら、禁忌の場所へ落ちて行く…



「あ……」

二人は同時に声を上げた。
果実は地面に吸いこまれ、その周りに小さな波紋が広がったのだから…
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