世界で一番好きな人
第2章 緩やかな恋
新しい出会い
その日から、しばらくしたある日。
私は、珍しく定時に仕事を終えて、帰路についていた。
いつも通る公園の前の道を通るとき。
「許さない!」
泣き叫ぶような声で、そんな言葉が聞こえた。
木陰から覗いてみると、小学校1,2年生くらいの女の子が、上級生に囲まれていた。
それも、一人に対して、三人も。
「生意気なんだよ。うちのお母さんも言ってたもん。あんたのお父さんは、」
「お父さんのこと、悪く言ったら許さない!!」
上級生に、決然と言い返す女の子。
きゅっと結んだ口元と、泣きそうに歪んだ目。
「私知ってるよ。この子、お母さんがいないから、」
「ちがうもん!お母さんはいるもん!!」
「へえ、どこに?」
「連れて来てよ。」
小学生だからこその残酷さで、その小さな女の子は確実に追い詰められていた。
可哀想になって、私は木陰から、そっと近付いた。
「どうしていじめるの?」
「誰?」
「別に、いじめてないし。」
突然現れた私を、邪魔そうに見上げる上級生たち。
「人のおうちのことを色々言うのは、お姉さんとしてよくないことよ。」
「なんで?」
「私も、お父さんがいないからっていじめられたことがあるの。すごく悔しかったし、悲しかった。だって、それは自分が望んだことじゃないもの。」
無言になったその子たちに、私は微笑みかけた。
「だから、そんなふうに責めたら駄目。悪いことをするとね、誰も見ていないと思っても、ちゃーんとお天道様が見てるのよ。」
三人の上級生は、顔を見合わせると言葉もなく去って行った。
後には、いじめられていた子と、私の二人が残される。
「……グズ」
見ると、精一杯強がっていたのか、その子が泣き出した。
小さな肩を震わせて。
その小さな体から、悔しさが滲みだしている。
「いつもあんなこと言われてるの?」
小さく頷く。
「そっかー。嫌な子たちね。」
胸に引き寄せると、私の腕の中でしばらく泣いていた。
その温もりが、なんだか愛おしくて。
私は自分の小さな頃を思い出した。
父親がいなかった私は、よくからかわれたんだ。
何で保護者の名前を書くところに、母親の名前が書いてあるのか、とか。
私はその度に、寂しい気持ちになった。
顔さえ覚えていない父親のことを想って、泣く夜もあった。
その頃の切なさを、少しだけ思い出した―――
私は、珍しく定時に仕事を終えて、帰路についていた。
いつも通る公園の前の道を通るとき。
「許さない!」
泣き叫ぶような声で、そんな言葉が聞こえた。
木陰から覗いてみると、小学校1,2年生くらいの女の子が、上級生に囲まれていた。
それも、一人に対して、三人も。
「生意気なんだよ。うちのお母さんも言ってたもん。あんたのお父さんは、」
「お父さんのこと、悪く言ったら許さない!!」
上級生に、決然と言い返す女の子。
きゅっと結んだ口元と、泣きそうに歪んだ目。
「私知ってるよ。この子、お母さんがいないから、」
「ちがうもん!お母さんはいるもん!!」
「へえ、どこに?」
「連れて来てよ。」
小学生だからこその残酷さで、その小さな女の子は確実に追い詰められていた。
可哀想になって、私は木陰から、そっと近付いた。
「どうしていじめるの?」
「誰?」
「別に、いじめてないし。」
突然現れた私を、邪魔そうに見上げる上級生たち。
「人のおうちのことを色々言うのは、お姉さんとしてよくないことよ。」
「なんで?」
「私も、お父さんがいないからっていじめられたことがあるの。すごく悔しかったし、悲しかった。だって、それは自分が望んだことじゃないもの。」
無言になったその子たちに、私は微笑みかけた。
「だから、そんなふうに責めたら駄目。悪いことをするとね、誰も見ていないと思っても、ちゃーんとお天道様が見てるのよ。」
三人の上級生は、顔を見合わせると言葉もなく去って行った。
後には、いじめられていた子と、私の二人が残される。
「……グズ」
見ると、精一杯強がっていたのか、その子が泣き出した。
小さな肩を震わせて。
その小さな体から、悔しさが滲みだしている。
「いつもあんなこと言われてるの?」
小さく頷く。
「そっかー。嫌な子たちね。」
胸に引き寄せると、私の腕の中でしばらく泣いていた。
その温もりが、なんだか愛おしくて。
私は自分の小さな頃を思い出した。
父親がいなかった私は、よくからかわれたんだ。
何で保護者の名前を書くところに、母親の名前が書いてあるのか、とか。
私はその度に、寂しい気持ちになった。
顔さえ覚えていない父親のことを想って、泣く夜もあった。
その頃の切なさを、少しだけ思い出した―――