世界で一番好きな人
その日は、夜になって電話がかかってきた。



「瞳子さん。今日の夜、暇だったりしませんか?」


「暇ですよ。どうしてですか?」


「実は、今日明日の日程で、薫が遠足に行っているんです。」


「あ、そう言えば聞きました!薫ちゃん、すごく楽しみにしていて。」


「私も、楽しみにしていました。」


「え?」


「今夜ですよ。」



電話越しに、掛川さんのふっと笑う息遣いが聞こえる。
私は、幸福で、一瞬気が遠くなりそうになる。



「行っても、いいんですか?」


「ええ。瞳子さんが来てくれるならね。……明日は仕事でしょうから、無理にとは言いません。」


「いえ。是非。」


「じゃあ、駅の改札で待っています。レイトショーにでも行きませんか?」


「はい!」



電話を切ってからも、胸のドキドキが止まらない。
掛川さんは、罪な人だ。

こんなにも心踊ることが、今までにあっただろうか。
夜に好きな人に会えるというだけで。

私は、荷物をまとめるとすぐに家を出て、電車に飛び乗った。

楽しみで、楽しみで。
まるで、遠足を待ちわびる子どものように。
わくわくしながら、電車の窓の外を眺めていた。

そんな私を見つめる視線には、気付きもしないで―――
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