世界で一番好きな人
レイトショーに来たのは初めてだ。

掛川さんと、デートらしいデートをするのも初めて。

飲み物と、キャラメルポップコーンを買って、座席に向かう。



「瞳子さん、足元に気をつけて。」


「はい。」



座席は空席が多かった。

こんな平日の夜だから、当たり前といえば当たり前だ。



「カップルばかりですね。」


「そ、そうですね。」


「ははっ。どうしたの、瞳子さん。」


「あ、いえっ。」



薄暗い映画館で、隣に座った掛川さんが私をからかう。

その穏やかな声と眼差しに、私はドキドキが止まらない。



「最初の宣伝が長いんですよね。」



掛川さんは、ポップコーンに手を伸ばしながら言う。

何をしていても、絵になる人だと思う。



「今日の映画って、ラブストーリーでしたっけ?」


「確かそうだよね。題名しか聞いたことはないけど。」


「詳しそうなのに、意外です。」


「初めての映画だからいいんじゃないですか。初めての映画を、瞳子さんと観るんです。初めて。」



掛川さんの言葉に、いちいち胸が熱くなる。

これじゃ、ラブストーリーを観る前から、私の胸はときめきっぱなしだよ……。



「始まりますね。」



映画館が一段と暗くなって、映画が始まる。

スクリーンに集中した私の左手が、温かい手に包まれる。



「こうして観ましょうか。」



真っ赤になった顔は、暗い映画館だから見られなくて済んだ。

私も、掛川さんの手を握り返す。


結婚寸前まで経験したことのある私が、手をつなぐだけでこんなにドキドキするなんて。


掛川さんの温もりを感じながら、私は溺れるように幸せを感じていた。
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