世界で一番好きな人
そして、ついにやってきたコンサート当日。
コンサートは午後からだけれど、リハーサルのため掛川さんはすでに出掛けた。
私は、高めのワンピースを着て、そわそわと歩き回る。
薫ちゃんも、掛川さんに買ってもらった可愛いワンピースを着ている。
「どうしよう。私の方が緊張してきちゃった。」
「瞳子さんが緊張してるの?」
くすっ、と笑う薫ちゃんに、私の心は和む。
「大丈夫だよ。雪人さんは、絶対大丈夫。」
「そうだよね。ピアニストだもんね。」
今日の会場は、日本でも有数の大きなホールだ。
座席数は、2006席。
宣伝活動なんてしなくても、元々すごく有名だった掛川さんのコンサートのチケットは、あっという間に完売した。
改めて、とんでもない人を好きになったんだな、と思う。
大きなパイプオルガンがあることで有名なそのホールは、並大抵の演奏家では借りられない。
だけど、掛川さんの名前を出した瞬間に、すでに決まっていたスケジュールの見直しまでして、この日にコンサートを入れてくれた。
それが、掛川さんなんだ。
それが、私が好きになった人なんだ。
「そろそろ、行こっか。」
「うん。」
薫ちゃんの手を取ろうとかがんだときだった。
私の手は、薫ちゃんの手をかすめて。
あれ……。
世界がぐるぐると回っている。
行かなくちゃいけないのに。
今から、大事なコンサートなのに。
一番いい席のチケットが、この鞄の中に入っているのに―――
「瞳子さん!」
床に崩れ落ちた私は、体に力が入らなくて。
一生懸命起き上がろうとしたのに、どうしても起きられなくて。
「瞳子さん!!」
必死に私の名を呼ぶ、薫ちゃんの声を聞きながら。
私は、すーっと薄れる意識に抗おうとし続けて。
でも。
どうすることもできずに、私は意識を手放した―――
コンサートは午後からだけれど、リハーサルのため掛川さんはすでに出掛けた。
私は、高めのワンピースを着て、そわそわと歩き回る。
薫ちゃんも、掛川さんに買ってもらった可愛いワンピースを着ている。
「どうしよう。私の方が緊張してきちゃった。」
「瞳子さんが緊張してるの?」
くすっ、と笑う薫ちゃんに、私の心は和む。
「大丈夫だよ。雪人さんは、絶対大丈夫。」
「そうだよね。ピアニストだもんね。」
今日の会場は、日本でも有数の大きなホールだ。
座席数は、2006席。
宣伝活動なんてしなくても、元々すごく有名だった掛川さんのコンサートのチケットは、あっという間に完売した。
改めて、とんでもない人を好きになったんだな、と思う。
大きなパイプオルガンがあることで有名なそのホールは、並大抵の演奏家では借りられない。
だけど、掛川さんの名前を出した瞬間に、すでに決まっていたスケジュールの見直しまでして、この日にコンサートを入れてくれた。
それが、掛川さんなんだ。
それが、私が好きになった人なんだ。
「そろそろ、行こっか。」
「うん。」
薫ちゃんの手を取ろうとかがんだときだった。
私の手は、薫ちゃんの手をかすめて。
あれ……。
世界がぐるぐると回っている。
行かなくちゃいけないのに。
今から、大事なコンサートなのに。
一番いい席のチケットが、この鞄の中に入っているのに―――
「瞳子さん!」
床に崩れ落ちた私は、体に力が入らなくて。
一生懸命起き上がろうとしたのに、どうしても起きられなくて。
「瞳子さん!!」
必死に私の名を呼ぶ、薫ちゃんの声を聞きながら。
私は、すーっと薄れる意識に抗おうとし続けて。
でも。
どうすることもできずに、私は意識を手放した―――