恋スル。
「泣きながら歩いてるやつが辛くないとか説得力ねぇよ」
初対面で、泣き顔を見られて、心を見透かされて。
「泣きたいなら泣け。
愚痴なら俺が聞いてやる」
頭を撫でる大きな手が優しくて。
堪えていた涙が溢れ出した。
廊下の隅で泣くわたしは、長身の彼に隠れていて、周りには気付かれていないみたいだった。
声をあげて泣きたかったけど、場所が場所だったし、みんなに見られたくなかったから、声を押し殺して泣いた。
「…落ち着いたか?」
涙はもう出なくなっていたけど、声を出さずにわたしは頷いた。
わたしの頭を撫でる優しい手が離れていくのが、名残惜しく思えた。
「俺も、周りは恭平ばっかだからさ」
「……………」
「俺のこと見てる奴なんて少ねぇんだよな」
…わたしと同じ。
それでも、彼は笑っていた。
確かにわたしは橘くんばっかり見ていて、橘くんの友達だと言うこの男の人のことを全然知らなかった。
この人は、わたしのことも見ていてくれたのに。
最低だな、わたし。
勝手に泣いて、慰められて、こんなに良い人なのに、わたしは知らなかったなんて…
申し訳なくなった。