恋スル。



「泣きながら歩いてるやつが辛くないとか説得力ねぇよ」



初対面で、泣き顔を見られて、心を見透かされて。



「泣きたいなら泣け。
愚痴なら俺が聞いてやる」



頭を撫でる大きな手が優しくて。

堪えていた涙が溢れ出した。


廊下の隅で泣くわたしは、長身の彼に隠れていて、周りには気付かれていないみたいだった。

声をあげて泣きたかったけど、場所が場所だったし、みんなに見られたくなかったから、声を押し殺して泣いた。



「…落ち着いたか?」



涙はもう出なくなっていたけど、声を出さずにわたしは頷いた。

わたしの頭を撫でる優しい手が離れていくのが、名残惜しく思えた。



「俺も、周りは恭平ばっかだからさ」

「……………」

「俺のこと見てる奴なんて少ねぇんだよな」



…わたしと同じ。

それでも、彼は笑っていた。


確かにわたしは橘くんばっかり見ていて、橘くんの友達だと言うこの男の人のことを全然知らなかった。

この人は、わたしのことも見ていてくれたのに。


最低だな、わたし。

勝手に泣いて、慰められて、こんなに良い人なのに、わたしは知らなかったなんて…


申し訳なくなった。


< 6 / 26 >

この作品をシェア

pagetop