Dear…愛する貴女よ
・・ゆり・・失いたくない・・。ゆり、ゆり・・。


道行く人が何事かとオレを見る。

そんなことにもお構いなしに今、オレはこの腕に抱きかかえている彼女のことでいっぱいだ。

そうして走っていると突き当たりの角が見えた。

そこを曲がるとオレが小さい頃から世話になってる病院があることに気付いた。


オレは足の向くまま走り続ける。

ようやくついた病院に駆け込む。

たった短い距離がまるで10kmにも100kmにも思えた。


「先生っっ!!」

オレは壊れるくらい乱暴に病院の扉を開けた。

久々にみた先生は少し白髪が増えているようだった。


「啓じゃないか?」


「オイ先生っ、コイツっっ、ゆりを診てくれ!!頼む!!」

見るからに休憩中だった先生はコーヒーカップ片手に唖然としていた。

「あ・・ああ・・」

先生はゆりを診察室に運ぶように指示を出した。

もちろん、オレは立ち入りを許されなかった。


こうして待っているとゆりの身にもしもということを考えてしまう。


こんなことならばゆりに告げるべきだった。

オレは逃げてばかりいた。

ゆりに嫌われるのが怖くて・・。

ゆりに軽蔑されるのが怖くて・・。

そしてゆりを傷つけることが何よりも怖かった。


自分が一番ゆりのことを傷つけているくせに・・。
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