Dear…愛する貴女よ
分娩室の前にある長椅子にドサッと座り込んだ。
少し軽く深呼吸をし、オレは思いを巡らせた。
あのときは気が動転してしまってあまり考えられなかったけど・・
ゆりの大きなお腹を目の当たりにしたとき・・心臓が飛び出るかと思った。
うれしいとか・・そんな気持ちじゃなくて、ホントに何一つ考えられなかった。
少し時間がたったとき初めてこの状況を実感し始めて・・
あんなに酷いことをしたオレの子供を中絶しなかったゆりになんて言って伝えたらよかったんだろう・・。
オレの中で号泣するくらい感動した・・・この気持ちを。
話したいことが山ほどあった。
なのに、いまはそんなこと吹っ飛んでしまったみたいだ。
とにかく無事に子供を産んで、ゆりの笑顔がみたい・・・。
「ゆり・・・」
オレは無意識に神様に祈った。
信仰心なんてまるでないけど・・神様ってのはこんなオレの願いも聞いてくれるものなのか?
都合いい時だけ頼って申し訳ないけど、今だけはすがりつく。
どうか、神様・・ゆりのこと、お願いします・・。