獣は小鳥に恋をする
*
さて。
今、昼休みあとの五時限目。
数学の授業だがこの先生は出席番号順に当ててくるので、今日はあてられる心配はないことが事前に分かっている。
だから安心して授業を受けられる。
澪はチラリと隣の席をうかがった。
(如月 葵くん...)
そこにはいつの間にか戻ってきた葵が机に顔を伏せて眠っていた。
金髪が目に鮮やか。
その隙間から覗く瞼はしっかり閉じられており、教科書やノートが全く出されていないことからも眠っていることが分かる。
いつも通りだ。
どうしてこんな調子で頭がいいんだろう。
澪は「ううーん」と頭をひねって唸る。
そんな時。
「吉塚!」
「はっはい!!」
突然名前を呼ばれて慌てて返事をし、思わず立ち上がる。
途端にクラス全員の視線が澪に集まり、澪は顔を真っ赤にした。
「おぉ、いい返事だな吉塚。その調子で隣の寝坊助を起こしてやれ」
どうやら澪があてられたわけではなく、標的は葵らしい。
数学教師であり、クラス担任である椎名。
葵に対して物怖じすることのない数少ない教師である。
(起こせって言われても...)
金髪のその姿はやっぱり怖い。
だが恐る恐る手を伸ばして、葵の肩に触れた。
「き、如月くん?起きてください...」
か細く小さい声で話しかけるが起きる気配はない。
「吉塚ーもっと大きな声で―」
椎名が教壇からダルそうに声を上げる。
(人の気も知らないで―!)
そうは思いながらも、今度は少し強めに肩をゆすり、先ほどよりも大きな声で名前を呼んだ。
「如月くーん!椎名先生が呼んでるよ!起きて下さーい!」