獣は小鳥に恋をする
「如月くん......っ、ご、ごめんなさい...!」



は?



「わ、私が......話しかけるのが嫌なら、やめるからっ.........」



は??



「......っ....、話しかけるのやめるからっ、ちゃんと学校きて....」



は???



「.........私のことっ...、嫌いでいいからっ......話しかけないからっ............、学校に来てっ.........ここに座ってて」



イミガワカラナイ。



予測不能の展開に、本当に驚いていたのだろう。



目を見開いて自分を見つめる俺を見て、彼女は不思議そうに首をかしげた。



「.........わ、私に話しかけられるのが嫌で......授業にでなくなったんじゃ.........」



「!?ちっ、違う!!!!」



「!」



考えるより先に言葉が先に出ていた。



逆なのに。



話しかけてくれる彼女の声を聞くと、嬉しくて、ホッとして、胸が苦しくて耐えきれなくて。



そんな風に思っているとは思わなかった。



思って欲しくなかった。



だからなのか。



人前で声を出したのはいつ以来だろうか。



彼女も驚いたように俺を見つめている。



それよりも俺が、自分自身に驚いていたのだが。



「い、今.........」



俺が喋ったことを言いたいのだろう。



涙も止まったようで、こちらをじっと見つめている。



俺とは違う、澄んだ瞳に見つめられ、心拍数が急激に上がる。



「ち、違うの?」



コクコクッ



「また、話しかけてもいいの?」



コクコクコクッ



「朝以外も、いてくれる?」



コクコクコクコクッ



「また、私の隣にいてくれる?」



コクコクコクコクコクッ!



必死に頷き続けた。



また、勘違いされても困る。



すると、彼女は笑った。



彼女の口元は綺麗に弧を描き、頬はピンクに染まる。



「良かった...!」



誰かの笑顔を見たことはいつ以来だろうか。



あまりに昔過ぎてもう覚えていなどいない。



ましてや、自分に向けられる笑顔など。



俺は知らない。



それは見た事もないように輝いていて眩しくて。



キュウゥッと胸が締められて痛くって。



愛おしいと思った。



夕日色に染められたその笑顔を見つめ、思う。



「如月くんの顔が見れた」



今まで、人に憎まれて生きてきた。



「声が聞けた」



ずっと孤独で、他人を避けて生きてきた。



「如月くんのことが知れた」



愛なんて知らなかった。



「嬉しい」



初めて触れたのかもしれない。



「すっごく嬉しい」



貴女のその笑顔に、俺は初めて恋をした。



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