たとえ誰かを傷つけても
俺はこいでいた自転車のブレーキを思いっきり押して止まった。
河原沿いの道。

12月にもなるとまだ6時前というのに真っ暗だ。
空を見上げるとバナナムーンが静かに俺を照らしてくれる。

俺はかじかんだ手に息を吹きかけた。



俺が、初めてりーちゃんを意識したのは3ヶ月前のことだった。
その日、すげぇ悔しいことがあった。
友だちから罵倒された。
自分がよかれと思ってやったことだったのに・・・

「八神、お前って誰にでもいい顔するんだよな。典型的な八方美人・・・」

「お前は自分が傷つきたくないだけなんだよ! そうやって、誰の気持ちもわかるって顔している奴に限って誰の気持ちもわかってねぇんだ!」

などと散々な言われ方をした。

学校では平静を保っていたが、帰り道自転車をこいでるうちに急に情けなくなった。
無茶苦茶な言われ方・・・と思っても、当たってるような気もする。

人ともめるのは嫌いだし、少々自分が我慢することで周りがうまくいくならそれでもいいかって・・・思う。
それを八方美人といわれればそうなのかもしれない。

走りながら涙が出て止まらなくなった。
あんまり涙が出るので俺は自転車を止めて肩を落として泣いた。

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