あまのじゃくな彼女【完】
「係長、甘い物食べて元気出してください」
はい、とどら焼を1つ差し出した。
「それこし餡だから大丈夫ですよ」
受け取った手の中を見つめると、係長はふんわりと笑った。
「覚えてたんだ?」
「豆の感じが嫌いなんでしたっけ?」
自分用につぶ餡を1つ取ると、ビニールを開けた。
「なんか豆の皮が口の中残るのが嫌なんだよな。甘いのに豆ってのがよくわからん」
「あんこは小豆から出来てるんだから、こし餡だって豆ですよ」
無茶苦茶な言い分に思わず吹き出す。
昔もこうしてみんなでお菓子を食べる時、シュンちゃんは絶対こし餡だったっけ。
さすがに味覚までは、大人になってもそうそう変わらないんだなぁ。
昔と重なり懐かしい気持ちになる。
ふふっと笑いながらそっと視線をやると、優しく微笑む係長と目があった。
「いつも俺用にこし餡とっといてくれたもんな。自分はつぶ餡好きなくせに」
子どもの頃の淡い恋心。
気づいてましたよと、と言われたみたいで顔だけ急激に火照るのが分かる。
わざわざそんな事、言わなくったっていいじゃないのよ。
1人赤くなったのがバレないようにそっと俯くと、もくもくとどら焼を頬張った。