あまのじゃくな彼女【完】
「吉村さん?」
名前を呼ばれるのに気づき、どうにか顔を上げる。
「伊達ならあっちにいたからデータもう大丈夫って呼びに来たんだけど・・・」
その声を聞くだけで、なんでこんなに安心するんだろう。
緩んだ涙腺からこぼれそうになるのをこらえるように、ぐっと下唇を噛む。
「めい・・・?」
そんな呼び方されたら寄りかかってしまいたくなる。
更に堪えるように下唇を余計に噛みしめた。
私のおかしな様子に気づいた係長は、自然と私の後方から漏れる光へと視線を移した。
「厚かましいのもやだけど可愛げねぇのは女としてないわな」
「だろ?だからサヨナラしたって訳」
ことさら得意げに話を続けていた森枝。
もうその言葉にいちいち反応する程の気力もない。すべてを拒否するように心が冷えていた。
扉に向けていた視線を私へと戻すと同時に、ぎゅっと握りしめていた手首を掴まれた。いつもなら振り払いたくなる程に強すぎる力だけど、今そんな余裕はない。
係長に引かれるまま向かいの扉へと身体を押し入れると、私を隠すように係長は扉を閉めた。