あまのじゃくな彼女【完】
提灯の擦れた文字『みどり』が見え暖簾をくぐる。
「こんばんはー」
ガラリと引き戸を開けると炭とお肉の良い匂い。スーツの背中につづいて店へと入った。
「あら、本当にシュンちゃんじゃないの!もう何年振り!!」
お店のおばちゃんがバシバシと手首から先を振りおろしながら近づいてきた。
「タケさんがシュンちゃん来るって言ってたけど、本当だったのねぇ」
「もう10年以上経ちますかねぇ」
ふふっと笑うおばさんの真ん丸笑顔は、きっとシュンちゃんの思い出の中とそう変わりないはずだ。
いつもの座敷席へと向かうと、吉村家とタケさんはじめ馴染みの保護者、そこに大地が混ざって座っていた。
「先生ご無沙汰してます」
「おうシュンか、この間はすまなかったな」
こうして意識してみると、お父さんですらシュンって呼んでたんだ。そら、隼人(はやと)なんてピンとくるはず無いじゃない。
あの大会の日、引率で忙しいお父さんはシュンちゃんとろくに話せずほとんど席を外していた。結局「ご飯でも食べにいらっしゃい」と言ってたお母さんの提案が実現される事になったのだ。
とはいえタケさん達もゆっくり話したがって、結局いつもの『みどり』に集合で落ち着いた。