あまのじゃくな彼女【完】
「はぁーい、朝礼始めますよ」
いつも通りだるそうな課長の声で中央の席に注目すると、昨日と同じようにいつもの姿が無い。山下さんの言うとおり、朝一の仕事にでも向かっているのだろうか。
「えぇ、みなさん知っての通り例のお茶のCM企画。山下君が中心に進めてくれていますが、今回思った以上に大きな企画になりそうです」
おい山下、と促された山下さんが中央まで歩みでた。
「みなさん、企画サポートいつもありがとうございます。えぇ、じつは撮影モデルなんですが当初断られていた黒澤綾江(くろさわ あやえ)の事務所からOKがでまして出演してもらえることになりました」
山下さんからの発表に、おぉぉっ!!!!・・・とオフィスがざわめく。
「最初の企画段階から彼女をモデルに考えていただけに、今回のCMより良い作品に出来そうです。現場撮影を控えて更に忙しくなるかと思いますが、よろしくお願いします」
山下さんからの挨拶が締められてもなおオフィスの盛り上がりは冷めやらぬまま。課長に促されてようやくみんな仕事に就いた。
「ねぇ、山下さんすごいわね。どうやってあの黒澤綾江落としたんだろ」
隣りの席から由梨が我慢できずに耳打ちしてきた。
「え、“あの”ってどういうこと?」
「はぁ!?芽衣子、あんた黒澤綾江知らないの・・・?」
信じらんない、という顔でマジマジ見られるけど答えようがない。本当に分からないのだから。
コホンっと課長が咳払いしてこちらに視線を走らせる。課長にしては珍しく真面目に仕事を促すので、ひとまず仕事に取り掛かることにした。