あまのじゃくな彼女【完】
あっ・・・と思った時には既に遅し。聞き耳をたてていた姿勢は崩れ、そのままつんのめるように会議室へと倒れこんだ。
「何よ、あなた。何か用?」
「い、いえ!すみません」
美人の威圧程怖いものはない。口が勝手に謝ってしまう。立ち聞きしてました、なんて言えやしない。
「お、吉村ちょうど良かった!山下から預かってるデータがあるんだ、オフィス行こうか」
これ幸い、と私の腕をガシッと掴むとその場を後にしようと歩き出した。
「ちょっと隼人!まだ話し終わってない!」
「うるさい。俺は終わったの。仕事に戻る」
悠々と組んでいた長い脚を慌てて解くと、黒澤綾江は美しい顔を歪ませながらデスクに両手を叩きつけた。
・・・あれ?
美しいその立ち姿に艶やかなロングヘア、ぼんやり感じる既視感。
脳内で必死に記憶を探す私をよそに、係長はそのままぐいぐい私を引きずっていった。
気づけば企画課のオフィスではなく、利用者の少ない非常階段脇のソファスペースまで来ていた。
「悪い、助かったわ」
あぁーっとめんどくさそうに頭をかきむしると、どさっとソファに腰をおろした。
「シュ・・・係長、黒澤さんにあんな事言って大丈夫なんですか?」
「あぁ、良いんだよアイツは」