あまのじゃくな彼女【完】
「黒澤さん、こんばんは」
「あら、あなたお昼の。ねぇあなたからも隼人説得してくれないかしら。食事くらい減るもんじゃなし良いじゃないのね。私明日は仕事で無理なのよ」
グロスの艶やかな唇を尖らせると、さながら雑誌のワンショットのように可愛らしく拗ねて見せた。
私なんて眼中にないらしい彼女は、マンションで会った事も覚えていないのだろう。あくまで私は係長の部下の1人。
そう、私はシュンちゃんにとってただの部下の1人だ。
「そうですね、食事くらい行って差し上げてはどうですか。係長もお疲れでしょうし、美味しいものでも食べて鋭気を養っては」
「ほうら、彼女もそう言ってるじゃないの」
「そんな事いってお前、どうせ明日も仕事の邪魔しに来るんだろ!迎えに来いだ、買い物に付き合えだとかほんといい加減にしろよな」
黒澤さんは、ふふんと満足そうに係長の腕を取ると自分の腕を絡ませた。そのあまりに自然な動きに思わず顔が歪みそうになる。
何度彼女はこうして係長に腕を絡ませたんだろう。
いや・・・そんなの私が知ってもどうしようもないじゃない。
もう、どうでもいい。
「係長、そんな事言って失礼ですよ。折角のお誘いなんですから、行ってくればいいじゃないですか。黒澤さんみたいにキレイな方とならまんざら係長も・・・」
「芽衣子!」
私の言葉を遮るように係長が叫ぶ。
それでも知ったことではない。勝手に2人で仲良くやればいいじゃないか。私が巻き込まれる道理なんてない。