あまのじゃくな彼女【完】
「ねぇ」
それまでご機嫌だった黒澤さんの表情が変わる。
「あなた、“吉村 芽衣子”・・・なの?」
「そうです、けど」
一瞬の威圧はすぐに笑顔にとってかわり、黒澤さんはするりと腕をとくと係長にむかって微笑んだ。
「隼人、やっぱり今日はいいわ。吉村さんと一緒に帰るから」
「はぁっ?お前、意味わかんねぇぞ」
それを言うなら私の方が意味わからない。黒澤さんは係長と食事に行きたかったんじゃないの?
あっけにとられる私をよそに、はいはーいと係長を突き飛ばす黒澤さん。
そのままの勢いで、私は黒塗りの後部座席にあっという間に押し込まれた。
「日高さん、隣町の小学校行って。その近くの『吉誠剣道教室』ってわかる?」
彼女の顔を隠していたつば広の帽子をとると、マネージャーらしき人に行先を指定したっきり押し黙ってしまった。