あまのじゃくな彼女【完】
「お前何で昨日、綾江と一緒だったんだよ」
その名前に思わずピクっと肩が動く。
「あの車、綾江のだろ。あんな目立つの他に思いつかねぇし」
「仕事帰りに送ってもらっただけだよ、偶然会って」
一番聞きたくない名前に耳をふさぎたくなる。だけどそれじゃ何のために頭からっぽにしたんだか分からない。
そらしていた視線を宏兄へとむけると、どうにか笑うような顔を取り繕った。
「・・・シュン、か」
今度は宏兄が視線をそらすと、はぁっと深いため息を漏らした。
「違っ、関係ないよシュンちゃんは」
「バカ。綾江がお前に絡むなんてそれ以外にねぇだろ」
あぁー・・・と唸るような声を漏らすと、宏兄は腰に手をやり天井を見上げた。
忘れようとしたはずなのに、容易にかき乱され嫌になる。無意識にまた噛みしめた唇、鉄の味が口内にじんわり広がる。