あまのじゃくな彼女【完】
そんなんじゃない。
綾江さんは悪くない。
綾江さんは間違ってない。
床へと徐々に広がる滴を見つめながら、あの日を思い出していた。
あの日何も言えなかったのは、驚いたからでも、怖かったわけでもない。
綾江さんの言うとおりだと思ったからだ。
今まで私はシュンちゃんに頼りっきりだった。
昔から傍にいるのが当たり前で、当たり前に助けられて。大人になって再会してからも、また当たり前のように甘えて。
それを綾江さんはどんな想いで見てきたんだろう。
自分のあまりの情けなさにふふっと笑いがこぼれる。
道場をやめていなくなったシュンちゃん。
あの路地で見かけた、私の知らないシュンちゃん。
彼のすべてを知り、傍で支えていたのは綾江さんなんだ。
それをただの幼馴染、ただの部下が図々しく傍にいていいわけがない。
離れなくちゃ。
シュンちゃんを解放してあげなくちゃ。