あまのじゃくな彼女【完】


そんなんじゃない。

綾江さんは悪くない。

綾江さんは間違ってない。


床へと徐々に広がる滴を見つめながら、あの日を思い出していた。


あの日何も言えなかったのは、驚いたからでも、怖かったわけでもない。

綾江さんの言うとおりだと思ったからだ。




今まで私はシュンちゃんに頼りっきりだった。

昔から傍にいるのが当たり前で、当たり前に助けられて。大人になって再会してからも、また当たり前のように甘えて。

それを綾江さんはどんな想いで見てきたんだろう。

自分のあまりの情けなさにふふっと笑いがこぼれる。



道場をやめていなくなったシュンちゃん。
あの路地で見かけた、私の知らないシュンちゃん。
彼のすべてを知り、傍で支えていたのは綾江さんなんだ。

それをただの幼馴染、ただの部下が図々しく傍にいていいわけがない。



離れなくちゃ。

シュンちゃんを解放してあげなくちゃ。

< 179 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop