あまのじゃくな彼女【完】
これは、その報いなのかもしれない。
ぼんやりそんな事を考えながらエントランスにたどり着くと、時計の針を確認した。
最近残業続きでロクな夕飯も食えていない。今日は久々にまともな食事にありつけそうだ、と行きつけの居酒屋に行く算段を付けていた。
「係長」
時計に落としていた視線をあげると、部下の千葉が立っていた。にっこりとは笑っているものの、正直こいつは何を考えているかわからない。
「あぁ、お疲れ様。今帰り?」
「はい、係長今日は早いんですね」
そう言って髪を撫でつける千葉の手は今日も隙無くネイルが施され、手に持つバッグは某有名ブランドの物だ。
とはいえ最近雰囲気が変わり、仕事もまじめにこなしているようだ。事実、今帰りということは千葉も残業していたということだろう。
「係長、よろしければお食事行きませんか?」
「いや、すまない。仕事を持ち帰らなければいけないんだ」
冗談じゃない。これで千葉と変な噂にでもなれば、事態がややこしくなるばかりだ。
「そうですか。ご相談したいことがあったんですが・・・吉村さんのことで」
ふふっと笑う千葉には悪魔のしっぽが見える。
コイツ・・・確信犯だ。