あまのじゃくな彼女【完】
炭と煙くさい焼き鳥屋に入ると、さっさとビールを注文した。べたつくようなカウンターではさすがに申し訳ないので、今日はテーブル席に陣取る。
このタイプは「イタリアンじゃなきゃ嫌!」とかめんどくさい事を言いそうだと思ったけど、意外とすんなり俺の提案を受け入れた。ここなら女子社員が来ることもないだろう。
「それで相談ってなんですか、千葉さん」
「あぁーそれいいですよ、係長。私気づいてますから、めんどくさいのやめましょう」
ニヤッと笑う千葉はいつものパーフェクトスマイルではなく、ただいたずらを企む子どもみたいだ。
「似た者ってやつですかね。係長裏があるっていうの何となく気づいてたし、決定的なのは芽衣子さんの話聞いてですかね」
千葉の言葉を合図にぐいっとネクタイを緩めると、深く息を吐いた。
「裏があるって失礼だな。それで・・・吉村がどうしたって?」
「係長、先輩に何したんですか?澤田先輩も言ってます、最近の芽衣子さん様子が変だって。仕事もちゃんとやってますし、寧ろいつもより仕事が早いくらいですけど。何か・・・変です」
それは俺も感じていた違和感だった。
いつも以上に仕事はできるし、見た目にはおかしなところはない。他の社員ともうまくやっているし、今度の現場撮影に向けた準備をせわしなくサポートしてくれている。
ただあの日、織江と帰った次の日から何かおかしい。
仕事の話しかしない・・・のは当たり前だが、妙に距離を取りたがっている。そう思わせる何かがあった。