あまのじゃくな彼女【完】
2 :
広々とした縁側、大きな沓脱石(くつぬぎいし)には悠々と一足の草履が寄せられている。白い石庭の向こうには、手入れの行き届いた大小様々な針葉樹が広い庭を埋める。
その中で刺し色としては十分に色づいた楓の葉が、ひらりひらりと縁側へと舞っていた。
「しっかしいつ来てもすごい庭だなぁ」
よいしょ、っと抱えていた荷物を隅に降ろすと山下さんは感嘆の声をあげた。
撮影現場となるこの古民家、スタッフの中で一番訪れているのは間違いなく山下さんだ。その彼がここまで言うのだから、何度おとずれでもその魅力は衰えることがないのだろう。
その壮大さに魅せられ思わず周りを見渡す。
するりとした表面の飛び石に心奪われひとつひとつ追っていくと、手水鉢にたどり着いた。自然とその流れ出る水に手をやると、コーンともカーンとも言い難い不思議な残響音が聞こえる。
その不思議で心地よい音に耳を澄ませながら、一体どこから音がするのだろうかと周囲に目をやった。
「それ、水琴窟(すいきんくつ)だよ」
集団から隠れるような場所に来てしまったはずなのに、その人は自然に私の後ろに立っていた。
「この取水鉢の下に空洞が作ってあって、そこに水滴が落ちる音を反響させてるんだよ」
「へぇ・・・不思議な音ですよね」
そこから離れまい、とその音に魅せられるよう再び耳を澄ました。
「作るのも大変だし、これだけ広くて静かな庭じゃないとこの音も楽しめないからな」
「なるほど。係長、詳しいんですね」