あまのじゃくな彼女【完】
その音のように澄んだ私の声とは裏腹に、係長の表情はとたんに曇ってしまった。
「芽衣子、お前どういうつもりだ」
「どういうつもり、とは・・・なんでしょう」
「いい加減にしろ、お前綾江と帰った日から変だぞ。あいつに何言われたんだ」
取水鉢に寄り添うように屈んでる私の腕を、ぐいっと乱暴に掴まれた。
「何も、ないですよ」
「嘘つけ!何もないのにこんな態度変わる訳ないだろ。ちゃんと説明するから、綾江に何言われたんだ」
ピンと張っていた気持ちがぐらりと揺れ、思わず力が抜けそうになる。
今更何を説明するというのだろうか。説明されたところで事実は変わらない。
この人の隣にいるべきなのは、私なんかじゃない。
掴まれていた腕を乱暴に振り払うと、それでも表情には冷静さを保ったまま係長を見やった。
「説明も何も、自分で気づいたんですよ。係長の傍にいるべきなのは綾江さんで、ただの部下の私がそれを邪魔しちゃいけないって」
「なんだよ・・・それ」
眉をひそめ納得のいかない顔をしながら、私の次の言葉を待っているようだった。