あまのじゃくな彼女【完】
「黒澤綾江さん、到着されましたーっ!」
アシスタントの声に注目すると、門をくぐり綾江さんが颯爽と敷地へと足を踏み入れる所だった。
メイク前だからだろうか。メガネと帽子で顔をかくすように現れた綾江さんは、そのスタイルや歩く様で十分にキレイだ。
「こ・・・こんにちはっ」
玄関前で出迎えた古民家の主・坂上さんも綾江さんの桁違いの美しさに気後れしているようで、綾江さんが軽く微笑み会釈しただけで顔を真っ赤にしていた。
さすがのセクハラ親父も、綾江さんに不貞を働こうだなんて思ってはいないだろう。
それこそただじゃすまないはずだ。
そんな坂上さんの情けない姿に気を緩めていると、綾江さんが足を止めた。
「今日はよろしくお願いします」
スタッフ全体に向けて挨拶した、と捉えるのが普通だろう。だけど綾江さんの視線は人混みをかき分け、確実に私を捉えているようだった。
そんな事しなくても何もないのに・・・。
綾江さんの無用な心配をよそに、私は仕事に集中しようと係長を完全に視界から排除していた。