あまのじゃくな彼女【完】
「戻ってください・・・係長」
顔も見ずにどうにかそれだけ声に出す。それが精いっぱいだった。
「どうした、何があったんだよ・・・芽衣子」
名前を呼ばれる、それだけで心が波立つ。暗闇をさまよう中、唯一の光のようにその声に思わずすがってしまいたくなる。
「やめて、呼ばないで・・・」
「芽衣子」
「やめてよっ・・・れ以上っ・・・」
上ずった声でどうにか伝えようとするけど、嗚咽がもれて言葉が続かない。こみあげるものを堪えるよう、ぎゅっと目を瞑った。
「こっち向いて」
強く首を振り拒否する。
「顔あげてくれよ、芽衣子・・・お願い」
従うつもりなんてないはずなのに。
その言葉の魔力に従わせられるかのようにそっと顔をあげる。
まるで〝逃がさない”とでも言うように、正面からまっすぐにその視線に射抜かれた。