あまのじゃくな彼女【完】
社長は普段では絶対見せない、何事か面白がるような表情を見せた。発言の意図より、そちらの方が気になり思わず眉をひそめる。
「隼人、お前は社内では必ず私を“社長”と呼ぶ・・・それが崩れた。その吉村という社員、そこまでお前を動揺させる程の女なのだろう?」
無意識だった。
自分でも意識して変えていたつもりはない。
ただ、社長は俺の知る“伯父さん”とはかけ離れつつあったから「この人は“社長”なんだ」と言い聞かせてきた。それが知らぬまに出てしまっていたのかもしれない。
そんな自分でも気付かない部分を露呈され心がかき乱れる。
表情には出さぬよう、身体の横に降ろしていた拳をぎゅっと握り感情を誤魔化した。
「ムキになったのは認めます。でもそれは、社長があまりにしつこいからですよ」
平静を装い、真顔で正面から社長を捉えた。